CAJLE2025年次大会 研究発表要旨 / Résumés / Abstracts   

口頭発表・ポスター発表タイムライン
  • 8/19
    10:45-12:15
    Session 1, 2, 3

  • 14:45-15:45
    Session 4, 5, 6

  • 8/20
    8:30-10:00
    Session 7, 8, 9

  • 13:00-14:00
    ポスター発表

  • 14:15-15:45
    Session 10, 11, 12

  • 16:00-17:00
    Panel Discussion

一日目 口頭発表 / Présentations orales / Oral Presentations

1日目 10:45-12:15 Session 1 (Asian Centre Auditorium)

S1-1 竹井尚子 (サイモンフレイザー大学) 
生成AIに欠けている能力を補うには?: 生成AIとの共存を考える上で求められるカリキュラム変革について

Naoko Takei (Simon Fraser University)
How can we supplement the capabilities lacking in generative AI?: Curriculum Reform for Coexistence

 2022年にChatGPTが一般公開されると、その高精度さに多くの人々が驚嘆し、当初は利用や開発に対する批判も見られた。しかし、利用の拡大とともに批判は次第に後退し、今は生成AIの有効活用を目指す研究や実践が注目されるようになっている。日本においても文部科学省がリスクへの注意喚起を行いながらも、有効利用を示唆する手引きを発行している。今後さらに精密になり機能を高めていくことが予測されるだけに、その利用には十分な配慮が必要だが、どの教育現場にも新たな対応が求められている現状は否めない。言語教育においては、生成AIとの共存を前提としたカリキュラムの見直しが不可欠になってきている。その変革は主に二つの方向に分けられる。第一に、生成AIの長所を生かした利用を検討し、その利用で学習者のデジタル・リテラシー向上も図ること。第二に、生成AIでは補えない能力を特定し、その能力育成を重視したカリキュラム構築すること。
 そこで本発表では、後者の生成AIとの共存を考える上で、必須になってくる生成AIでは遂行ない能力の育成に焦点を当てたカリキュラム変革について検討する。グローバル社会の一員として生活する上で必要な能力と、雇用の可能性(employability)を高めるための能力という二つの観点から考察する。その上で、そのような能力の向上を果たすためには、どのようにカリキュラムを作成するかについても解説する。カリキュラムに入れる課題の例として、発表者が中級のクラスで試験的に取り組んだプロジェクトについて簡単に触れる。

S1-2 青木裕美 (ブリティッシュコロンビア大学)
中級日本語学習における生成AIの効果的活用法―作文支援と自律学習の取り組みから

Hiromi Aoki (University of British Columbia)
Practical Approaches to Generative AI Integration: Enhancing Writing Skills and Learner Autonomy in Intermediate Japanese Classes

 生成AIが広く普及して2年以上が経過し、AIリテラシーがキャリア形成に重要なスキルとして認識されつつある。しかし、日本語学習者の間では生成AIの利用経験にばらつきがあり、効果的な活用法についての指導が求められている。筆者が担当する中級日本語学習者を対象とした調査では、生成AIを日本語学習に活用している学生は約半数にとどまり、その理由として生成AIによる回答の不正確さを挙げる声が多かった。
 この状況を踏まえ、日本語学習のための効果的な生成AIの活用を促すことを目的とし、中級学習者を対象に二つの試みを実施した。一つ目の試みでは、作文活動において学生が自身で選んだ語彙が改まった書き言葉の表現として適切かどうかを生成AIに確認させるものである。その回答の精度を調査した結果、96%という高い精度が確認され、限定的な活用方法の有効性を学生と共有することで、生成AIへの信頼感を向上させることができた。
 二つ目の試みは、学生が自由な発想で生成AIを活用する自律学習プロジェクトである。学生は各自で学習計画を立て、一学期に渡り生成AIを活用した日本語学習を実践した。学生間で生成AI活用の熟達度に差があることを踏まえ、学習の進捗や成果、または失敗体験をLMSとクラスでの会話活動を通じて定期的にクラスメートと共有させ、お互いから生成AIの効果的な活用方法を学べる機会を作った。また、学生がある程度生成AIの使用に慣れた段階で教師との面談を行い、学習成果や問題点について話し合い、教師から問題解決のための指導を行った。
 本発表では、これらの試みの詳細な内容と学生から得られた振り返りアンケートの結果を報告する。

S1-3 施列庭 (輔仁大学)
仮想キャラクターとの対話を通じた日本語口語能力向上:知識ベース連携型システムの開発と効果検証

SHIH, Lieh-Ting (Fu Jen Catholic University)
Enhancing Japanese Oral Proficiency through Dialogue with a Virtual Character: Development and Evaluation of a Knowledge Base-Integrated System

 外国人日本語学習者にとって、口語能力の向上は普遍的な課題であり、流暢な会話のためには能動的なアウトプット練習が不可欠である。コンピューター支援言語学習(CALL)やAI技術、特に仮想エージェントはインタラクティブな練習機会を提供するが、応答の定型性やカリキュラム連携不足が指摘されてきた。特に、日本語初級学習者(学習歴半年~1年)は、学んだ知識を運用するための練習相手が不足するという問題に直面している。この課題に対し、本研究では、初級日本語の授業内容(語彙、文法、表現)を網羅した独自の知識ベースと音声認識・合成技術、仮想キャラクター(aituber-kit)を統合した対話システムを開発した。本研究は、このシステムを日本語初級クラスに2か月間導入した結果、学習者の学習意欲、口語流暢性、および全体的な口語表現能力に対して顕著な正の効果が見られたことを示す。本システムの貢献は、単に対話相手を提供する点に留まらない。第一に、授業内容と連携した知識ベースにより、従来のチャットボットと異なり、学習知識の定着と応用を促す教育的に意義のある対話が実現された。第二に、音声認識と仮想キャラクターの組み合わせは、テキストベースの対話等と比較し、学習エンゲージメントと没入感を高め、練習相手不足に対し動機付けをもたらす質の高い解決策となった。さらに、システムが多様な言い換えや関連表現を提示することで、学習者は類似表現に自然に触れ、言語運用の幅を広げることができた。これは実践的な言語感覚の育成に寄与する。本研究の成果は、知識ベースと対話エージェントを統合したAIアプローチが、言語学習、特に初級段階の口語能力育成に有効であることを示唆する。システムによる対話履歴の記録・分析は、学習者の振り返りや教師による個別化された指導にも貢献する。将来的には、自動フィードバック機能の強化や対応範囲の拡大が期待され、本研究はテクノロジーを活用した次世代の言語教育実践に向けた重要な一歩となるものである。

1日目 10:45-12:15 Session 2(CK Choi Conference Room)

S2-1 Sachiko Hiramatsu (Brown University) Beyond the Classroom with Purpose: Service Learning in a Japanese Language Course

平松幸子(ブラウン大学)
目的を持って教室から飛び出す:日本語コースにおけるサービスラーニング

In the age of AI, questions arise about whether it can replace teachers or genuine human interaction. The increasing use of AI in language learning highlights important considerations about the purpose of learning a foreign language and the evolving role of educators. In this context, service learning (SL) emerges as a valuable bridge between these concerns, offering insights into the future of language education in an AI-driven world.

Service learning is a form of real-world, reflective, problem-based learning in which students provide meaningful service to a community partner (Goldberg et al., 2006). Since language-learning tasks should aim to build students’ ability to use language in real-life contexts (Sun & Yang, 2015), SL creates authentic opportunities for language practice and communication.
Another key focus in education today is the development of 21st-century skills. Among several frameworks, the KSAVE model—representing Knowledge, Skills, Attitudes, Values, and Ethics—aligns well with foreign language education. It identifies ten essential skills, including critical thinking, communication, and both local and global citizenship, all relevant to SL experiences.

In a Japanese language program situated in a region without a significant Japanese-speaking community, potential community partners include fellow learners in other Japanese classes, the program itself, or local high school students. This presentation outlines the core principles of SL through the lens of 21st-century skills and details how it was integrated as a “community service” component of an advanced Japanese course.
Concrete SL activities included leading weekly language tables and supporting program-wide events such as speech contests. The project culminated in student-led proposals aimed at increasing enrollment in Japanese courses.

This presentation also summarizes the tangible benefits students experienced through service learning, based on survey data. Preliminary analysis suggests that engaging in purposeful, real-world language use helps learnes gain self-confidence and a sense of meaningful contribution—echoing the sentiment: “”I help, therefore, I learn”” (Sun & Yang, 2015).

S2-2 丸山千歌 (立教大学)、小澤伊久美(国際基督教大学)
日本語教育プログラム運営における評価学的知見の活用 —日本語教育プログラムにおける評価実践と理論の接続—

MARUYAMA, Chika (Rikkyo University), OZAWA, Ikumi (International Christian University)
Utilizing Evaluation Knowledge in Managing Japanese Language Programs: Bridging Practice and Theory in Japanese Language Program Evaluation

 認証評価の普及、教育予算の削減や運営母体の財政逼迫、生成AIの急速な進展などを背景に、日本語教育プログラムは以前に増して成果の可視化と説明責任が求められている。このような背景から成果の提示に注目が集まりがちであるが、戦略的な設計やリソース管理と結びつけた評価を行って、プログラム運営に還元することも評価の重要な役割である。
 現場の感覚を持つ日本語教師の発信や調整は、プログラムを安定的に運営するための鍵となるが、評価学の知見を活用することで、より質の高い評価の実践が可能となる。しかし、現場で評価を実践する者は理論としての評価学に関心が薄く、研究者は現場の複雑性を捉えきれていない現状がある。両者がいかに協働できるかは、今後の検討課題である。
 そこで本発表では、評価学の知見、特に発展的評価(Developmental Evaluation: DE)を軸において評価活動を展開し、運営に生かしてきたA大学日本語教育センターの実践を事例として取り上げ、その取り組みを評価学の視点から分析し、プログラムの維持・発展と評価学との関係性を整理する。
 特に、近年の実践が、事業の開始前に立ち返って目的や手段を点検するプロアクティブ評価(Proactive Evaluation: PE)の考え方と近似している点に注目し、当該プログラム関係者がPEを学ぶことの有効性について考察する。さらに、評価がどのように現場の変容を支えたかを軸に、現場と研究の接続、実践者と研究者の協働、実践知の共有の可能性について検討し、評価学が言語教育プログラムの質向上に寄与する「共通言語」として機能し得る可能性を示したい。

S2-3 石川比奈子、シャープ昭子 (カルガリー大学)
学生主導型教材開発とコミュニティ形成による日本語学習の成果報告

Hinako Ishikawa, Akiko Sharp (University of Calgary)
Student-Led Material Development and Community Building for Japanese Learning

 本発表は、さくらネットワーク 海外日本語教育機関支援(助成)を受けて実施した学生主導型の日本語教材作成プロジェクトの成果報告である。2025年6月から12月にかけて行われた本プロジェクトでは、オンラインと対面が交わるコミュニティでの学習を通じて、学生が主体的に漢字・文法・作文教材を作成し、その成果を集約したウェブサイトを構築した。
 全8回のセッションに延べ116名が参加し、アンケート(平均評価4.34/5)からは、教材作成やクイズ活動を通じて学生の主体性や学習意欲が大いに高まったことが示された。特に、ティーチングアシスタントによる即時フィードバックや学生同士の協働が、学習効果向上の主要因として挙げられている。一方で、指示の明確化やインタラクティブな活動の強化が今後の課題として浮かび上がった。
 発表では、コミュニティ形成が学生同士のモチベーション向上に与えた影響や、学習効果を中心に、成果物として構築されたウェブサイトを紹介する。これを通じてカナダ国内の他の日本語学習者のモチベーション向上を狙う可能性を示唆したい。

1日目 10:45-12:15 Session 3 (Asian Centre Seminar Room)

S3-1 小林ヒルマン恭子 ブリティッシュコロンビア大学
先住民教授法を用いたアイヌ民族に焦点をあてた上級日本語コースの実践報告

Kyoko Kobayashi Hillman (University of British Columbia)
Report on Ainu-Focused Advanced Japanese Language Course Using Indigenous Pedagogy

カナダの教育において先住民化を推進する動きが起こり,日本語教育でも同様の試みが報告されている(金・小林ヒルマン, 2022)。本発表はアイヌ民族に特化した上級日本語コースで先住民教授法と内容重視型言語教授法を併用し,先住民族への理解を深め,間主観性を高め包摂社会作りへの理解をも促したコースの実践について報告する。コースの目標は,内容面はアイヌの文化,歴史,土地等に関する理解を他の先住民族とつなげ比較することとし,日本語面は様々な媒体による生教材,特にアイヌの活動家や学者の考えを直接読み解き,授業で意見交換を行うこととした。さらに学生自身が学習を振り返り,間主観性とアイデンティティに関する思考を深められることも目指した。学習活動には先住民教授法から1) コミュニティ作り2)トーキングサークル 3) 振り返りパネルという三つの活動を採り入れた(Barkaskas & Gladwin, 2021)。コース終了後のアンケート調査では,学習目標だった先住民族への理解を深めることと間主観性を高めることについて学生から肯定的な回答が得られた。コース内容については,現在のアイヌのライフスタイルとアイデンティティに関する教材が最も高評価を得たが,これは映画を基に意見交換を行った結果である。また包摂社会に関する読み物も大変評価が高かった。先住民族教授法から採用した活動に関してはトーキングサークルが最も効果があったと感じた学生が多かったが,他の二つの活動への評価も概ね良かった。先住民族問題で重要な歴史,政策,人権のようなテーマは限られた時間内での意見交換が困難だったため,今後の課題だと考えている。

S3-2 善積祐希子 トロント大学
日本国内の多様性を考える日本語教育実践:アイヌ民族の教材を用いて

Yukiko Yoshizumi (University of Toronto)
Incorporating Ainu Content into Japanese Language Education: A Practice to Promote Understanding of Diversity in Japan

 日本語教育では、学習者は言語そのものに加え、日本の文化や社会に関する知識も深めていく。多くの教科書には、文法や表現と関連付けて文化的なトピックを扱うセクションが設けられているが、その内容が日本国内の多様性に焦点を当てているとは限らない。日本の多様性を考える上で重要な視点の一つとして、日本の先住民であるアイヌ民族の文化や言語の存在が挙げられる。しかし、主流の教科書の多くでは、それらがほとんど扱われていない。一方、カナダ全体の教育においては、カナダにおける先住民族の重要性や、その言語・文化を保存する意義についての関心が高まっており、こうした関心は外国語教育においても、学習対象国の社会的背景や多様性を理解することの重要性にもつながると考えられる。実際、カナダ国内の一部の教育機関では、アイヌ民族に関する教材を日本語教育に取り入れる試みも見られる(金 ・ 小林ヒルマン, 2022; Langton, 2023)。
  本発表では、カナダの大学における中級日本語コースで、アイヌ民族に関する基礎的な内容をミニモジュールとして取り入れた授業実践を報告する。中級前半コースではオンライン教材(Langton, 2023)を用い、アイヌの歴史・生活・芸術文化を紹介し、後半コースではアイヌ語に焦点を当て、日本語との比較を通して理解を深めた。学生は日本や自国の文化・慣習との比較を通して、アイヌ民族に対する理解を深め、日本に対する見方を広げる機会を得た。今後もより体系的なモジュールの開発を進めていきたいと考えており、本実践から得られた気づきや課題を踏まえ、今後の授業作りの方向性についても検討したい。

S3-3 Motoki Long-Nozawa University College London
Pedagogical possibilities of digital media in gender identity construction

ロング野澤基(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)
ジェンダー・アイデンティティ構築におけるデジタル・メディアの教育的可能性

The issue of gender representation has been a topic of concern in the field of second language studies (e.g., Gray, 2022; Kaiser, 2017; Kappra & Vandrick, 2006), as it relates to language teaching and learning, investment, and identity construction. Of interest to me is particularly gender identity construction among queer Japanese language learners. Within the field of Japanese language education, the issue of representation and gender identity has been discussed from several viewpoints including an approach to create an inclusive Japanese language learning environment (Arimori, 2020), deconstruction of the fixed categories of gender by seeing identity as performed and plural (Kubota, 2008), and the teaching and learning of prescriptive gender roles and idealized expectations of gendered language use in the classrooms (Siegal & Okamoto, 2003). In the body of literature in Japanese language education, the link between gender identity construction and digital media has not been explored substantially. In this presentation, I will examine queer students’ experiences of learning and developing gendered language use and the interplay between gender identity construction and digital media. Data include semi-structured interviews and reflective and exploratory writings from five Japanese language learners who identified as queer and participated in a larger study on queer students’ experiences of normativities in Japanese language classrooms. The theoretical framework is drawn from the concepts of “in-between” in the field of curriculum studies and “imagined identities” in the field of second language studies. My findings show that the participants had abundant access to digital media through which they became familiar with and learned gendered language use outside of the classrooms due to the dearth of queer representation in the classroom learning settings. That is all the more reason why they hoped for instructors’ facilitation and guidance in order to develop their Japanese language skills pertaining to gender identity construction and not to be misguided by discourses circulated online. I will consider the implications of the findings by discussing pedagogical possibilities for incorporating digital media as a learning tool, the need for discourse awareness, and the role of teachers as a facilitator.

1日目 14:45-15:45 Session 4 (Asian Centre Auditorium)

S4-1 徐 珉廷 (昭和女子大学)
生成系AI時代における日本語アカデミック・ライティング教育の方向性:ChatGPT生成テキストと学習者のレポートの比較分析

MINJUNG SEO (Showa Women‘s University )
Directions for Teaching Japanese Academic Writing in the Era of Generative AI :A Comparative Analysis of ChatGPT-Generated Text and Learner Reports

 ChatGPTをはじめとする生成系AI(大規模言語モデル:Large Language Models)の登場は大学教育の変化をもたらしている。日本の大学においても、ChatGPTを利用する学部生や留学生が増えつつある。一方で、情報の正確性・信頼性や公平性の問題などのアカデミック・インテグリティの懸念から使用を認めない大学もある。生成系AIを単なる代筆者ではなく、学習者自身の思考を引き出し、構造化するための「補助的パートナー」として位置づけた指導設計が今後ますます必要になると考えられる。
 本発表では、ChatGPT、Gemini、DeepSeekなどの生成系AIをアカデミック・ライティング支援のためのツールとして注目し、大学の学部授業でどのように効果的に取り入れるか、その活用可能性と限界を検討する。具体的には卒業論文執筆とゼミのレポートに焦点を当てて、日本の学部授業で作成された学習者のアカデミック・ライティングの成果物と、同じプロセスでChatGPTが生成したテキストを比較・分析する。分析対象は➀問題提起、②概要、③序論、④タイトルである。その結果を踏まえ、日本語アカデミック・ライティングのための具体的な指導案および教材開発の方向性を提案する。

S4-2 小森万里 (大阪大学)
アカデミック・ライティングの困難に対処するための情意的特性とは―専門知識の不足への対処に焦点を当てて―天野みどり(大妻女子大学) : 現代日本語の格助詞と接続助詞の機能的重なりー逆説的表現の容認度調査からー

KOMORI Mari (The University of Osaka)
Dispositional Traits for Coping with Academic Writing Challenges; Focusing on Difficulties Arising from Limited Specialized Knowledge

 日本語教育分野におけるアカデミック・ライティング(以下AW)教育では、言語、技能、基礎、専門といった構成要素(二通他2004)の育成とともに、執筆途中で困難に出会った際の不安や自信喪失等に対処しながら書き上げていくといった情意的特性(Driscoll & Wells 2012)の育成も必要とされる。前者に関しては既に多くの研究がなされているが、後者の情意的特性の育成を組み込んだ研究は管見の限り多くはない。
 そこで、本研究では、日本語で学位論文を書いた経験のある(元)大学院留学生を対象に論文執筆過程での困難とその困難への対処としての意志的制御方略(コーノ2001/2006)を調査した結果をもとに、多くの調査協力者が困難だとして挙げた「専門知識の不足」への対処としてどのような意志的制御方略が用いられ、その方略の実行を支えた情意的特性とは何かを検討した。
 調査の結果、専門知識の不足を補うための直接的な意志的制御方略としては、符号化制御、情報処理制御、場面制御、他者制御などが使われ、それらの実行を支えた情意的特性として、研究の方向性に対する柔軟性、関連文献の読解に対する根気強さ、専門知識の理解度に対する客観的分析と他者に援助を求める行動力、試行錯誤する力などがあることがわかった。また、専門知識の不足に対する間接的な方略としては、自己教示、感情制御、場面制御、他者制御などがあり、それらの制御方略を実行するために必要な情意的特性として、研究を中断しないための言葉を見つける力、他者の励ましを受け取り自己効力感を回復させる力、様々な方法を話し合い研究テーマに興味を持ち続ける開放性や好奇心、指導教員の指導に対する信頼などが関与していることが示唆された。

1日目 14:45-15:45 Session 5 (CK Choi Conference Room)

S5-1 加山裕子 (マニトバ大学)、大嶋百合子 (マギル大学、ビクトリア大学) 親の言語インプット内の副助詞「ハ・モ」と動詞の自他の区別

Yuhko Kayama (University of Manitoba), Yuriko Oshima-Takane (McGill University, Victoria University)
Focus particles wa and mo in parental input and the distinction between transitive/intransitive verbs

 日本語の格助詞「ガ・ヲ」は文中の名詞句に付随して主語・目的語など文法的な情報を提供するが、親の言語インプットでは頻繁に省略されることが報告されている(Rispoli,1991他)。またMorikawa(1999)は日本語母語児の「ヲ」の発話は3歳以降になると指摘している。その一方でMatsuoka et al.(2006)は子どもの副助詞「モ」の発話は格助詞よりも早く、言語発達の比較的早い時期(2歳程度)に始まると報告している。
 加山・大嶋(2023)は、副助詞「ハ・モ」が親子の対話に頻繁に現れることに注目し、「ハ・モ」が格助詞の代わりに使われることで項構造の獲得に寄与しているのではないかという推測に基づき、母親の子どもへの発話内で副助詞がどのように使用されているかを調査した。副助詞の使用は母親・子どもの両方に見られたものの、それが項構造の獲得に関係しているかどうかは明らかにはされなかった。
 本研究では、日本語母語児3名とその母親の長期にわたる発話データを分析した。「ハ・モ」の発話は頻繁に観察され、動詞と一緒には発話されていなくても、前後の動詞文の主語や目的語になりうる名詞句が「ハ・モ」とともに単独で現れる場合が見受けられた。こうした発話をKüntay & Slobin(1996)が提案する「バリエーション・セット」の一部と定義し、前後の対話につながりを持つ副助詞「ハ・モ」の発話が母親と子どもの発話内でいかに使用されているかを調査した。発表では、副助詞・格助詞の使用の両方の分析結果にもとづき、それらが言語インプットの中で日本語の動詞の自他の区別にどのように関係しているかを検討する。

S5-2  Kanae Obata (Tsinghua University)
Child Agency in Transnational Migration to Canada: How Does the Migration Affect Chinese-Japanese Children’s Investment in Japanese as a Heritage Language?

小幡佳菜絵 (清華大学)
カナダへの国際移動における子どもの行為者性: 国際移動は日中国際結婚家庭の子どもの継承日本語学習投資に, どのような影響を与えたのか? 

The present research investigates the impact of transnational migration from China to Canada on the child agency of Chinese-Japanese children, particularly their investment in learning Japanese as a heritage language. Child agency within the framework of Family Language Policy (FLP) signifies an emergent paradigm, articulating children’s active role and influence in shaping parental linguistic behaviors and practices. As demonstrated in the extant literature, forms of child agency primarily encompass the following: (1) metalinguistic comments related to children’s expectations for their parents’ language proficiency; (2) medium requests to parents to switch an intrafamilial language to the children’s desired language; and (3) children’s role as language brokers, translating the majority language for their parents.

This study draws on ethnographic data, focusing on life stories of a Japanese mother who has raised her children in a bilingual environment outside of Japan, including both China and Canada. Specifically, the present research employs three sources of data, including observational data collected during informal group gatherings of Japanese women married to Chinese husbands in China, a semi-structured interview with a Japanese mother, and informal text message exchanges with the Japanese mother.

The analysis of the narrative data yielded three insights regarding the influence of transnational migration on children’s agency. The influences can be categorized as follows: (1) The Canadian atmosphere, characterized by its high degree of receptivity to ethnic diversity, has been demonstrated to engender an enhanced sense of acceptance regarding both Japanese and Chinese identities among the children of the participant. (2) A unique role of an intrafamilial language broker was identified in the participant’s family following the child’s heightened acceptance of his Japanese roots. (3) A modification in the trilingual linguistic hierarchy of the participant’s daughter is evident, encompassing Chinese, Japanese, and English.

The findings of the research suggest that there is a necessity to understand the growing trend of children’s investment in learning Japanese as a heritage language in the context of transnational migration, involving multiple countries and areas. This perspective stands in contrast to extant research, which typically focuses on populations who settle in a single foreign country, such as Canada.”

1日目 14:45-15:45 Session 6 (Asian Centre Seminar Room)

S6-1 小島祐子 (ウィスコンシン州立大学ミルウォーキー校、マルケット大学)、中川康弘 (中央大学)
ヒドゥンカリキュラムとしての教科書の再検討 -職業と趣味に含まれる階層に着目して-

Yuko Kojima Wert (University of Wisconsin – Milwaukee, Marquette University), NAKAGAWA Yasuhiro (Chuo University)
Reexamining Textbooks as Hidden Curriculum:  Focusing on Class Stratification in Occupations and Hobbies

 日本にブルーカラーの職業はないんですか…米国のある大学初級クラスで学生が何気なく発した質問である。使用していた教科書は『げんきI』(The Japan Times)。重工業の町として栄え、そう裕福ではない家庭も多い地域である。当該教材に登場する職業は学生にとって現実的なのか。本研究はそんな疑問に端を発している。
 『げんき』はこれまで多く分析されてきた。熊谷(2008)は、呼称の違いなどに潜むジェンダーの偏りを指摘した。近年もWATANABEほか(2024)が、『げんき』に潜むジェンダー&セクシュアリティのバイアスを、教師が無意識に教える危険性を指摘している。増版によりジェンダー、人種問題に改変も見られる。だが職業や生活に潜む階層イメージに特化した研究は管見の限り見当たらない。
本研究では、当該教材に含まれる職業や趣味の表現を調べ、その階層イメージが学生の社会文化理解にどんな影響をもたらすか可能性を検討した。そして不可視化されている偏りを分断の萌芽とし、それらを日本語教育でどう引き取るか考察を試みることを目的とした。
 結果、職業には医者、弁護士、ニューヨークの会社で働く父などが見られ、趣味もスキー、ゴルフ、クラシック音楽などが目立った。休日は旅行が定番であり、カード使用が自明の社会が含意されていることも確認された。そこに違和感を覚える学生が一定数いることが考えられ、無批判な受容が階級の再生産につながることも懸念された。
 Duff(2024)は、教材が学生の背景を想定しているか意識することの重要性を述べている。ここから教材使用には、学生の背景を確認しつつ、社会背景そのものを問い、共に検討していくことに、教育学としての日本語教育の可能性を見出した。

S6-2 田中香織、金梨花 (ブリティッシュコロンビア大学)
教師同士の対話を通じた包摂性に対する意識向上の実践

Kaori Tanaka, Ihhwa Kim (University of British Columbia)
A Practice to Raise Awareness of Inclusiveness through Collaborative Dialogue among Teachers

 本発表では、初級日本語教科書『げんき』を用いる教育実践において、EDI(Equity, Diversity, and Inclusion)の観点から本学の日本語科の教員が行ってきた取り組みを報告する。多様なバックグラウンドを持つ学生が共に学ぶ教室内の包摂性がますます重要視されるようになっている昨今、我々教員には包摂性に対する高い意識と実践が求められる。私たちは約1年間にわたり、どの学生も「受け入れられている」「自分が反映されている」と感じられる学習環境を実現するにはどうすればよいか、定期的に教員間で対話を重ね、教材の内容や授業運営を再検討してきた。
 検討の中では、ジェンダー表現、障害のある学習者への配慮、先住民化の視点、漢字圏・非漢字圏出身者の学習負担の違い、継承語話者に必要なサポートなど、複数の課題が浮かび上がった。それらに対し、補助教材の導入、教材内容の一部修正、教員の言葉遣いや態度の再検討など、具体的な対応策について議論を重ねてきた。
 本発表では、具体的な実践例や経験も交えながら、教科書の枠を超えてEDIを体現する授業のあり方を考察する。多様な学習者が安心して学び合い、互いに成長できる環境づくりに寄与することを目的とする。

2日目口頭発表 / Présentations orales / Oral Presentations

2日目 8:30-10:00 Session 7 (Asian Centre Auditorium)

S7-1 吉村由紀 (マサチューセッツ大学アマースト校)
生成AIと言語教育の共生:アニメ・ドラマコースにおける活用事例とその展望

Yuki Yoshimura (University of Massachusetts Amherst)
Integrating Generative AI into Language Education: Applications and Future Perspectives in Anime and Drama Courses

 本研究は、生成AIであるChatGPTを日本語のアニメ・ドラマコースにおいて活用し、その有用性と学生の主観的評価を分析・報告するものである。2022年のChatGPT公開以降、生成AIは急速に日常生活に浸透し、教育分野でもその活用が注目されている。一方で、不正行為への懸念(吉村, 2023)、外国語学習者が外国語を対象に生成AIを使用する際にハルシネーションを見抜く難しさ(吉村, 2024)、生成AIを使いこなせる学習者とそうでない学習者との間に生じる学習格差(Trust, 2023)など、課題も指摘されている。これらの背景を踏まえ、本研究では、学習者がテクノロジーを効果的に活用できるようになることを目的とし、ChatGPTを辞書代わりに使用して語彙リストを作成したり、日本語のプロンプトを用いて画像生成を行うなど、学習ツールとしての活用を試みた。中・上級の学習者を対象に、教科書や語彙リストが存在しないアニメやドラマを教材とすることで、ChatGPTの使用意義を高めた。学生には、言葉の意味だけでなく、使い方や例文、類義語などを含めて、理解が深まるまでチャットを継続するよう指示した。オンライン辞書の一般的使用法と異なり、ChatGPTでは、時系列的に調べた語彙や表現が同じウィンドウに残り、自動的に語彙リストが作成される。作成された語彙リストは、表現クイズや学期末のプロジェクトに活用し、学生が自ら調べた内容を能動的に学ぶ機会を提供した。発表では、学生とChatGPTのやり取りやアンケート結果を基に、ChatGPTの使用に関する主観的評価を分析し、教師と学習者の両視点から考察する。また、テクノロジーの進化に伴い、教師がその急速な変化にどのように対応し、共に進化していくべきかについても言及する。(689字)

S7-2 齊藤 真美 (ベトナム国家大学ハノイ校 日越大学)
生成AIが存在する学習環境で求められる日本語授業の設計と評価

Mami Saito (Vietnam National University, Hanoi, Vietnam Japan University)
Designing Japanese Language Instruction in a Learning Context Where Generative AI Use Is Inevitable

 生成AIの普及により、日本語教育の現場では、学習者が自身の思考を介さずとも自然な日本語の文章を生成・提出できる環境が現実のものとなっている。特にライティングにおいては、AIに依存することで、自ら考え、言語化する経験を積みにくくなるという課題がある。このような状況下では、言語知識の習得に加えて、批判的思考力や日本語による表現力の育成が求められる。
 本発表では、学習者が提出した課題の約6割が生成AIを使用していたという実態を踏まえ、AIの存在を前提としながらも、授業内では「自ら考えて書く」力を育てる活動設計を行った実践を報告する。具体的には、書く際にどこでつまずくのかを学習者自身が把握できるよう、語彙・構成・表現などの観点から書くステップを細分化し、それらを可視化したワークシートを作成した。これにより、書く前の思考過程を意識化し、AIに頼らずとも文章を構築できるよう支援した。
 また、最終課題の内容においてはAIの使用が見られることもあったとしても、教師としては最終成果物だけで評価するのではなく、授業内での取り組みや構成案の作成、ワークシートの活用状況、思考の軌跡といったプロセス全体を踏まえて評価を行った。AIが学習環境に組み込まれることが前提となった現在において、教師がいかに学習のプロセスを設計し、学習者の思考と言語表現を支えるかという視点は今後もより重要となってくる。カナダのようにICTの活用や生成AIの使用が身近な教育現場においても、授業設計や評価の在り方を考える際のひとつの視点として共有できるのではないかと考える。

S7-3 孫彤 (東京外国語大学)
中級日本語教育におけるAI教材活用の影響 ―SAMR モデルに基づく授業分析―

SUN Tong (Tokyo University of Foreign Studies)
Impact of AI-Based Teaching Materials in an Experimental Intermediate-Level Japanese Class: A SAMR Model-Based Analysis

 近年、教育分野における AI 技術の活用が注目を集めており、日本語教育にも新たな可能性を切り開きつつある。本研究では、中級レベルの日本語授業に生成AIを活用した教材(以下「AI教材」)を導入し、その効果を SAMR モデルに基づいて評価することで、AIが日本語教育に及ぼす影響を明らかにするとともに、AI時代における日本語教師の新たな役割を提示することを目的とする。
 本研究では、日本語を母語とする教師2名と非母語とする教師2名の計4名が評価者として参加した。評価対象は、筆者が実施したAI教材を用いた中級日本語授業実践の録画および学習ログである。まず、評価者に実践授業の背景と SAMR モデルによる評価手法を説明し、評価基準への共通理解を図った。次に、4 名の評価者がそれぞれ授業録画と学習データを参照し、「読解文学習」「内容理解活動」「読解文発表練習」「AI 会話練習」の各活動について SAMR モデルの4段階に照らして判断を行った。その後、評価結果の相違点を評価者全員で議論し、合意に基づく最終評価を取りまとめた。
 評価の結果、AI は従来教師が担っていた教材作成の一部を単に「代替」(S)するだけでなく、学習者の学習状況に即したリアルタイム・フィードバックを提供することで学習活動を「拡張」(A)していることが確認された。また、個人による読解からペアによる発表練習、そしてAIとの対話練習へと連続的に展開する学習形態は、授業の進行や学習者間の協働の在り方を「変容」(M)させる可能性を示唆した。そして、学習者に個別最適化された指導を実現できる点は、従来の一斉授業では困難であった柔軟な指導方法を「再定義」(R)する契機となり得ることが示された。

2日目 8:30-10:00 Session 8 (CK Choi Conference Room)

S8-1 Akiko Mitsui (York University)
“Good” Writing for Intermediate Japanese Learners in Canada in the Technology Era

三井晶子 (ヨーク大学)
カナダの中級日本語学習者にとっての“Good” writing:テクノロジー時代を迎えて

In Japanese language courses, writing tends to be taught as just one minor element, as it is time-consuming and challenging.  This may be exacerbated, especially in beginner and intermediate courses, with the increasing availability of technology.  Technological aids to writing expand the range of effective self-learning opportunities, but can also lead to unintentional or intentional violations of academic integrity.  This is partly because students are very afraid of mistakes, having native speakers as an “ideal” model in mind.

Adopting the genre-based literacy pedagogy (Martin & Rose, 2005), the focus of writing is on the use of appropriate language more than on native-like accuracy, considering whether the writing serves its intended purpose and whether the writer has communicated clearly to the reader.  With that in mind, I have designed a communication-focused writing course, having a partner school in Japan where student volunteers act as on-line writing correspondents with our students.  This is helpful for creating a concrete situation, a purpose for writing and the motivation to write to convey students’ messages, as students have real readers, the volunteers, rather than simply an instructor grading their work.  Also, the instructor’s position has changed from the traditional instructor to a third party who can give advice for more successful communication from students’ point of view.  Concomitant with this change, feedback on multiple drafts and evaluation criteria naturally focus on the appropriateness of language for the particular purpose in the specific context:  on why the readers did not understand what students wrote, and then on how and what to write to convey what they mean.

In addition, this positioning change helped foster in-class discussion with students about the goals of their writing and effective ways to use technology in their context.  Based on students’ reflections on their experience, I will report how students’ recognition about their technology use and their ideas of “good” writing changed autonomously.  Further, from the point of view of language learners as effective L2 users, not imitators of native speakers (Cook 1999, Park 2024), I will discuss the need to reconsider the idea of “good” writing in Japanese language education.

S8-2 水戸淳子 (香港大学)
課題作成における”ツール”の使用を考慮した中級ライティング・コースの試み

Atsuko Mito (The University of Hong Kong)
An attempt to tackle the students’ potential use of “tools” in writing assignments in an intermediate level writing course

 昨今のChatGPTに代表される生成AIやDeepLといった機械翻訳などの様々なツールの進化は、日本語学習者にとっての日本語で「書くこと」の意味や方法、そこから得られる学びについて影響を与えていると考えられ、日本語教育研究の分野においてもそれらの活用をめぐって可能性や利用法の検討、懸念や注意点などについて数多くの報告がなされてきている(大工原、2024; 吉村、2023など)。
 筆者は長年、海外の大学で中級日本語ライティングの授業を担当してきているが、ライティング課題のトピックは学生本人でなければ書けないものをできるだけ設定するようにしてきている。今年度からは、学生が様々なツールを用いて課題を作成することを概ね前提とし、それにともなう形で、成績評価を含めたライティング・コースの見直しを行った。また、課題の提出においては、作成中にどのような言葉や文法事項を新たに学んだのかを具体的に記述する「日本語学習ノート」も提出させ、作成段階での自らの学びを記録として残し、意識的に振り返ることができるような試みを行った。
 本発表では、具体的なコースの見直しについて、課題やテストと成績評価との連動を中心に報告し、また「日本語学習ノート」の内容分析、および課題やテストにおける学生のパフォーマンスについての過去のデータとの比較などから、今回の試みから見えてきたことを共有できたらと考えている。

S8-3 佐々木真実 (カールトン大学)
“読むだけ”でいいの? ― 書かない時代の“書く力”を考える

Mami Sasaki(Carleton University)
Is Reading Enough? – Rethinking Hand Writing in Digital Era. 

 本研究では、日本語学習者の手書き習慣やその認識を通じて、現代の日本語教育における手書き指導のあり方を再考する。デジタル環境が学習の中心となりつつある中で、学習者がどのように手書きを捉え、どの場面で実践しているのかを明らかにすることを目的とした。
 カナダの英語圏の大学で日本語を学ぶ約60名の学習者を対象にアンケート調査を実施し、手書きの頻度、学習や評価における手書きの経験、文字の丁寧さや書き順への意識についてデータを収集した。その結果、学習者の多くが日本語の授業以外で手書きを行う機会がほとんどないと回答している。また、約10名の教師へのアンケート調査によると、コロナ禍のオンライン授業を境に、手書きの指導や手書き作文などの課題が著しく減少したとの回答があった。このことから、書くことよりも読むことに重きを置いた評価方法が主流になっている現状が浮かび上がっている。
 一方で、手書きと記憶の関連性については、これまで多くの研究でその有効性が指摘されており、本発表ではそうした先行研究にも触れながら、現代の学習者にとって手書きがどのような意味を持ちうるのかを考察する。さらに、日本語教育において根強く残る「丁寧な字を書くこと」や「正しい書き順を守ること」といった文化的価値観が、現在の学習環境とどのようにかみ合っているのかについても議論したい。
 本発表ではアンケート結果の分析に加え、今後予定しているフォローアップ・インタビューや手書きサンプルの収集を通じて得られる知見についても展望を述べる予定である。

2日目 8:30-10:00 Session 9 (Asian Centre Seminar Room)

S9-1 許 明子 (名古屋大学)
日本語母語話者と韓国人・中国人日本語学習者の視点と主観性表現の使用について ―4コマ漫画のストーリーテリング談話の分析を通して―

Myeongja Heo (Nagoya University)
The use of viewpoints and subjectivity among Japanese native speakers and Korean/Chinese Japanese learners: Through an analysis of storytelling discourse in four-panel comic

 本研究は日本語母語話者と日本語学習者(韓国人・中国人)の視点の捉え方と日本語の主観性を表す表現形式の使用について相違点を明らかにすることを目的としている。日本語母語話者と上級レベルの韓国人・中国人日本語学習者それぞれ70名を対象に日本語による4コマ漫画のストーリーテリング調査を実施し、文字起こししたテキストデータの比較分析を行った。調査方法は、4コマ漫画の出来事について話し手自身が主人公となり、自分に起きた出来事として捉えて、口頭でストーリーを述べてもらった。話し手の視点と主観性を表す表現の中で、①「~てくる」、②受身表現、③授受表現、④感情表現、⑤該当表現なし、の5つの表現を抽出し、1コマ目から4コマ目の各コマにどのような表現を用いてストーリーを述べていたかについて分析を行った。
 その結果、日本語母語話者と韓国人・中国人日本語学習者の間には視点の捉え方を表す表現の使用において相違点があり、特に授受表現の使用頻度に有意差が認められた。日本語母語話者は韓国人・中国人日本語学習者に比べて、「~てくれる」「~てもらう」の授受補助表現と、話し手の視点を捉えた「~てくる」の表現が多用されているのに対して、韓国人日本語学習者は本動詞の「来る」と感情表現を用いて話し手の視点を捉えていることが分かった。一方、中国人学習者は授受表現や該当する表現の使用が有意に少なく、話し手の視点が脱落する可能性があることが明らかになった。本研究による分析の結果から、日韓中の視点の捉え方の違いによって日本語の主観性表現の使用に相違点が見られ、日本語の学習にも影響を与える可能性が示唆された。

S9-2  小室リー郁子 (トロント大学)
デジタル時代における漢字教育

Ikuko Komuro-Lee (University of Toronto)
Teaching Kanji in the Digital Age

 情報技術と電子機器の発達により、日本語教育の現場では学習者が日本語で発表スライドを作ったり、作文をタイプして出したりすることが容易にできるようになった。一方、教室の外では、学習者は様々な学習アプリを使い、YouTube等で字幕がついた動画を見ている。かつて国外の学習者が目にする文字は、教師がタイプや手書きしたものが大部分を占めていたが、現在では教師の知らないところで学習者はネット上にあふれる文字に触れ、常に日本語を見て学ぶことができるようになった。だが、活字で表示されている文字の中には、形に違和感を覚えるものや、明らかに点画の配置や画数が違っているものが散見される。しかし、学習者が自らそれに気づくことは難しく、日本語の文章の中に、ましてや学習者自身が自分で日本語として打ち出したテキストの中に、そのような文字が混じっていようとは思わない。
 私たちがタイプして打ち出す文字は文字コードによって特定され、あらかじめそのコードで登録されている文字が画面上に映し出される。現在世界中で広く使用されているUnicode(ISO/IEC 10646)では世界中の文字にそれぞれ異なったコードがあてられている。しかし、漢字の中には、日本語話者が見ると明らかに形が異なる複数の文字に同じコードが振られており、その結果、使用する電子機器の設定によって日本語テキストの中に、日本語と同じコードだが日本語では使われない文字(中華フォント)が表示されるということが起こる。
 本発表では、この現状の背景と、これが日本語教育に与える影響について述べる。そして、『初級日本語げんき』の学習漢字317字に現れる中華フォントを例に、デジタル時代における漢字教育について考えたい。

S9-3  結城佐織 (アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター)
中・上級日本語学習者のための語彙定着支援プログラムの開発 ―専門語彙・漢字語彙の習得促進を中心に―

Saori Yuki (Inter-University Center for Japanese Language Studies)
Development of a Vocabulary Retention Support Programme for Intermediate and Advanced Learners of Japanese: Focusing on the Acquisition of Specialised and Kanji-Based Lexicon

 語彙の定着は日本語力の向上において不可欠な要素である。特に中・上級の学習者には専門語彙や漢字語彙の習得が求められるが、既存の教材や辞書ツールだけでは対応が困難な場面も少なくない。たとえば、Rikaikunのような語義提示ツールは即時的理解には有効であるが、「大人数」が「おおにんずう」か「おとなすう」かといった語構造の把握に課題を抱える学習者は混乱を招く場合がある。また、ChatGPTに代表される生成AIは高精度な語彙や翻訳を提示する一方で、誤情報や省略的応答といった問題点も指摘されている。本研究ではこれらの課題に対応するため、語彙定着を支援する検索プログラムの開発を行っている。記憶の定着に効果があるとされる反復・分散学習(Spaced Repetition)やアクティブリコール(Active Recall)などの理論を基盤に、①学習者のレベルや目的に応じた語彙の選定、②適切な訳語の提示、③応用的使用を促す自律学習支援、の三点を柱にプログラムの設計を行う。語彙と訳語を文中に併記することで、自然な文脈における理解を促す。また、専門語彙を中心に生教材から語彙を自動抽出する機能も備えるため、語構造の把握が難しい学習者、反復学習を希望する学習者に対し特に有効である。さらに本検索プログラムは、教育課程全体における共有性にも留意し、教師や学習者が学年などに関係なく常に利用できるようにし、かつプログラミングやプロンプトの操作が不要であるなど、利用者の利便性にも配慮している。本研究はICTを活用した学習支援の一例として理論と実践を統合した語彙定着支援法を提示し、学習者の自律的な言語習得を持続的に支援することを目指す。

2日目 14:15-15:45 Session 10 (Asian Centre Auditorium)

S10-1 池田朋子 (マギル大学)、礒部靖世 (公立千歳科学技術大学)
自律学習におけるピアと教師の役割 -セルフスタディーに取り組む学習者の求める学習環境とは-

Tomoko Ikeda (McGill University), Yasuyo Isobe (Chitose Institute of Science and Technology)
The Roles of Peers and Teachers in Autonomous Learning: What Kind of Support Do Self-Study Learners Expect?

 近年急速に進むAI技術の普及により、日本語教育においても、教室の存在意義、また教師の役割が問い直されている。発表者らが5年前からコースワークの一部として取り入れているセルフスタディープロジェクトを見ても、一人でできる自習教材や翻訳ツールが、5年前と比べると大幅に充実し、独学がしやすくなったことを実感している。このプロジェクトにおいて、教師は主に自習教材の紹介、計画のサポート、毎週の記録へのフィードバックに加えて、カナダの日本語学習者と日本の英語学習者をつなぎ、ピアフィードバックを行うためのファシリテートを行ってきた。だが、この急速に変化するデジタル時代に、学習者らが教師やピアに求めるものも変化しており、我々は教師の役割に対するビリーフを時代に合わせて常に問い直す必要があると感じている。
 本発表では、2023年秋と2024年秋にカナダと日本の学習者に実施したアンケート調査から、彼らにとってピアはどのような存在なのか、教師は何をするべきかについての回答を分析し、考察する。ピアの存在については、「刺激を受けた」「モチベーションが上がった」など、肯定的な回答が多数あった一方で、相手とのレベルや目的の違いを指摘する意見も見られた。教師に対しては、フィードバックを求める回答が日本側で多く、カナダ側では教材の提供や、学習が順調に進んでいるかどうかのチェック(見守り)を求める声が多かった。これは、カナダ側の回答者のほとんどが独学経験者であり、教師からのフィードバックがないことに慣れていることが理由の一つとして挙げられる。これらの回答をさらに分析し、今後の教室活動の意義と教師の役割について考察・提案を行う。

S10-2 橋本拓郎 (香港大学)、三戸勝 (ハワイ大学)
「教える」から、「デザインする」へ ―COIL(オンライン国際協働学習)実践から見る教師の役割―

Takuro Hashimoto (The University of Hong Kong), Masaru Mito(The University of Hawaiʻi at Mānoa)

 デジタルツールの発達により、教育にも多くのICTツールが活用されてきた。Covidを経て、その傾向はより強くなっているのではないだろうか。デジタル時代における教師の役割で最も大切なことの1つは、コースの学習目標を達成するために、デジタルを効果的に用いたコース・活動をデザインすることだと筆者らは考える。
 香港大学とハワイ大学では、2022年9~11月にかけ、COIL(オンライン国際協働学習)を導入したコースデザインを行った。両校の学習者が自身の街を紹介するバーチャルツアーを作成し、Zoomでその過程や振り返りについて、パートナー校に口頭発表や意見交換などをした。この実践を通して、学習者自身の街や文化について深く理解すること、異文化や日本語学習環境の多様性を知ることの他、就職力を高めるために、デジタルスキルの習得やプレゼンテーション力、チーム内での協働力・提案力の向上も目指した。
 COILで協働する海外機関には、それぞれ異なるコースの学習目標があり、それらも効果的に達成できるように、スケジュール、活動の内容や順序、アセスメント、ツール選択などを考慮し、コースをデザインする必要がある。 本研究では、教師の大きな役割として、デジタル時代のデザインに焦点を当て、同期・非同期の活動の効果的な選択などデザインした意図通りにうまくいった点や、筆者らの想定していなかったチームワークの向上など肯定的な効果について考える。一方、協働のグループ分けや評価の難しさなど本実践におけるデザインの限界と課題についても具体的に共有し、今後の日本語教育のコースデザインへの貢献を目指す。 

S10-3 吉田 睦 (早稲田大学)
海外日本語学習者との継続的な遠隔会話に見られる話題の推移

Mutsumi Yoshida (Waseda University)
Topic Shifting in Longitudinal Online Conversations with Japanese Language Learners Overseas

 近年、遠隔会話を活用した日本語教育実践が広がりを見せているが、オンライン環境が談話の展開や話題の推移にどのような影響を与えるかは、未だ十分に明らかにされていない。特に遠隔会話では、対面とは異なる視覚・音声的制約が存在する一方で、参加者の所属する文化的・地理的背景が異なることにより、各話者が情報提供者として話題を主導する場面が多く観察されている(吉田, 2023)。
 そこで本発表では日本語学習者と日本語母語話者によるZoomを用いた継続的な遠隔会話のデータをもとに、話題の導入・展開・移行の特徴について明らかにすることを目的とする。本発表では、カナダの大学機関(ブリティッシュ・コロンビア大学)で学ぶ初級日本語学習者と日本国内の大学で学ぶ日本語母語話者の遠隔会話を収集し、そのコミュニケーションの特徴を縦断的に記述した。初対面の7組が3回の会話を継続した計21会話を対象とし、話者関係の構築と話題の推移に焦点を当てて分析した。
 分析では、雑談を人間関係構築の立場から分析する大津(2016)や今田(2015)の議論をふまえ、継続的な会話が話題の展開を支え、学習者と母語話者間の対等な会話構築を促進する例を具体的に記述した。また、複数回の会話を通じて、前回の話題を参照する発話や、共通経験を基盤にした新たな話題の産出など、談話の連続性を示す言語的特徴が指摘された。これらの分析を通じ、本発表では、遠隔会話における話題の推移に関する実証的資料を提示し、国を越えた継続的な会話活動の教育的意義と実践的利用の可能性について考察する。

2日目 14:15-15:45 Session 11 (CK Choi Conference Room)

S11-1 上保 文絵
マサチューセッツ工科大学
中上級日本語クラスにおけるポッドキャストの活用:総括的評価の実践とその展望

Ayae Uwabo-Dodson (Massachusetts Institute of Technology)
Podcasting as a Summative Assessment in an Intermediate Japanese Class: A Case Study

 近年、デジタル技術の進展に伴い、日本語学習者向けのコンテンツは多様化している。特にポッドキャストは、視覚情報に頼らず音声のみで情報を伝達するメディアとして、学習者にとってアクセスしやすい教材となり得る。しかし、学習者がこうした音声メディアを活用する機会は主に受容的スキル(リスニング)に偏りがちであり、発信型の言語活動としての可能性については十分に検討されていない。本発表では、中上級日本語クラスにおいてポッドキャスト制作を総括的評価の一環として導入した実践を報告し、その成果と課題を考察する。
 本実践では、従来のスキット発表の代替として、学習者がポッドキャスト番組のホストとなり、既習の語彙や文法を用いてストーリーテリングを行う活動を実施した。学習者は台本の作成から録音、編集に至るまでのプロセスを通じて、談話的・文法的特徴を意識しながら自律的に言語運用能力を高めることを目指した。本プロジェクトを通じて、学習者は多様な学習スタイルに対応しつつ、デジタルリテラシーを向上させる機会を得た。特に、音声コンテンツの制作を通じた学習活動は、学習者の主体性を促し、プレゼンテーション能力の発展にも寄与する可能性がある。
 本発表では、授業後のアンケート結果とアウトプットの分析をもとに、この手法の有効性と課題を検討する。また、本評価方法を ACTFL (2015) の World-Readiness Standards for Learning Languages における「Presentational Communication」 の枠組みから考察する。さらに、AI技術の発展に伴い、ポッドキャストとAIが言語学習においてどのように補完的な役割を果たし得るのかについても考察し、今後の指導への示唆を提示する。

S11-2 藤平愛美 (大阪大学)
大学院理系留学生に求められる言語行動と文化理解 ―研究室文化をふまえた日本語学習教材の開発―

Manami Fujihira (The University of Osaka)
Language Practices and Cultural Understanding Required of International Graduate Students in Science and Engineering: Developing Japanese Language Courses that Foster Understanding of Japanese Laboratory Culture

 本発表の目的は、日本の大学の研究室で理系留学生に求められる言語行動を明らかにし、それをもとに教材開発の方向性を示すことである。日本では、理系留学生は大学院生の比率が高く、主に英語で研究を行うため、日本語学習の必要性は高くない。加えて、学習意欲があっても研究優先の環境下では、日本語科目の受講が困難である。しかし、ソーヤー(2006)や三牧(2006)は、実験機材の使用可否が雑談などのインフォーマルな交流により醸成される信頼関係に依拠し、人間関係構築には一定の日本語運用能力が求められるとする。さらに、理系人材不足を背景に高度外国人材の育成と定着が日本の社会課題となっており、理系留学生に対する日本語教育のあり方も再考すべき時期にある。このような背景のもと、発表者はオンデマンド教材の開発に取り組んできたが、日本特有の「研究室を単位とする研究一体型教育(Laboratory-Based Education)」に内在する暗黙の規範や慣習といった「見えない文化」の取り扱いが課題となった。そのために、2020年度以降、教職員、日本人学生、留学生(延べ58名)へのインタビュー調査を実施し、その結果、安全管理意識、備品管理への積極的な関与、トラブル時の情報共有、独断を避けた確認行動など、協働的な姿勢が重視され、そうした文化理解を伴った言語行動が期待されている実態を明らかにした。現在、研究室内での会話例を通じて日本語と研究室文化を同時に学べる動画教材を開発中で、3編のプロトタイプを用いたブレンデッド型コースの試験運用も始まり、100名の修了者を輩出したところである。修了率は70%を維持しているが、今後は文化的な適応支援の観点から効果検証し、教材の完成度を高めていきたい。

S11-3 レ・カム・ニュン (ベトナム国家大学ハノイ校・日越大学)
多様なレベルのベトナム人日本語既習者に対する自律的学習支援の効果

Le Cam Nhung (VNU Vietnam Japan University, Hanoi)
Effects of Autonomous Learning Support for Experienced Students at Various Proficiency Levels

 本研究の目的は、レベルが多様なベトナム人日本語既習者(大学入学時に日本語を学んだ経験がある学習者)を対象にして、自律性向上を目指した指導法の効果を検討することである。自律的学習(autonomous learning )とは、学習者が自己の学習に責任を持ち、主体的に学習を進める能力や姿勢を指す。自律性の定義には様々なアプローチがあるが、本研究では、David Little(1991、2007など)による心理的および実践的側面からの自律性の捉え方を参照する。指導法の効果は、①学習者が自己の学習における問題点を発見し、改善する能力、②適切な学習ストラテジーを選定する能力、③学習モチベーションや目標の変化、④学習成績の向上の4つの観点から分析した。これらに関する学習者分析、授業記録、アンケート、インタビュー調査の結果、既習者のレベルに多様性があっても、学習者に学習内容や進行・評価に関する決定権を与え、学習者同士で学習をコントロールするスキルを育成することで、授業内容のみならず学習者のモチベーションや適切な学習ストラテジーの発見が促進されることが確認された。また新たな分析課題として、この心理的変化が学習者の今後の全体的な学習過程に大きな影響を与える可能性があることも明らかになった。

参考文献
Little, D. (1991). Learner autonomy: Definitions, issues and problems. Dublin: Authentik.
Little, D. (2007). Language learner autonomy: Some fundamental considerations revisited. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 14–29.

2日目 14:15-15:45 Session 12 (Asian Centre Seminar Room)

S12-1 柴田智子 (プリンストン大学)
自律的発音学習と教師の役割

Tomoko Shibata (Princeton University)
Autonomous Pronunciation Learning and Teacher’s Role

 本発表で、デジタルコンテンツを積極的に使った自律的発音学習と教師の役割について紹介したい。
初級の授業では多くの時間が語彙や文法の練習に費やされる。しかし、多くの学習者が自然な発音の習得を望んでいる(河野 2014)状況で、どのように発音指導をすればいいだろうか。筆者は学生に発音学習の目標と活動計画を立ててもらい、授業外でできるだけそれに沿って活動をしてもらっている。コース始めはオンラインチュートリアルで発音に関する知識を自習し、録音課題ではシャドーイングモデルとしてYoutubeやInstagramのビデオなど様々なデジタルコンテンツを使ってもらう。またOJAD Suzuki-kunを使い、自分で発音を確認する術を学ぶ。このように学生は授業外で様々なツールを使い、発音学習を進める。
 教師は発音練習の情報提供者であり、発音の弱点に気づかせ、自律練習を促すファシリテーターである。自律的発音練習で一番大切なのは自己モニター力を伸ばすことで、録音の自己評価が大切であるが、自己モニター力は自分1人で伸ばすことは難しく教師の指導が大切である(小河原2009、河野2014)。そのため、授業で間違い聞き取り練習を行う。さらに、授業で短いタスクを実施し、その録音を自己評価することで実際の場面での自分の発音に気づく練習もする。これらの練習は10分ほどで終わるため、カリキュラムへの影響は少ない。授業内指導だけでなく、宿題シートへのコメントやオフィスアワーでの個人指導などを通し、学生個人個人に学習進度や上達度を示し、彼らが少しずつでも前に進むための精神的サポートをすることも教師の大切な役割だと言えよう。

S12-2 大戸雄太郎 (東京国際大学)
海外で発音指導を行う教師の協働について考える

Yutaro Odo (Tokyo International University)
Considering of Teacher Collaboration in Pronunciation Education Abroad

 本研究の目的は、フランスの日本語教育現場で発音指導を協働で行った教師の語りを基に、海外で発音指導を協働で行うことの意味を探ることである。
 海外の日本語教育においては、日本語を母語としない教師(以下、NNT)が多数を占めているが、発音指導は母語話者教師(以下、NT)のみが担当することが多い。しかし、人材やリソースが限られている状況では、NNTとNTが協働しながら発音指導を行うべきである。
 発表者は、フランスのある大学にて、NNT であるB(仮名)と、NT であるD(仮名)と協働して発音指導の実践を約7ヶ月間行った。具体的には、学習初期段階の大学1年生を対象にした必修の日本語総合授業における、発音指導の方法を考え、他の教師が指導を行う手助けをした。本研究では、実践終了後に、発表者が教師らと個別に実践を振り返る形で行った意見交換における教師の語りをデータとし、実践を通して学んだことについて質的分析を行った結果を述べる。
 本実践には、日本語を母語とするかどうかにかかわらず、教師が各々の能力を活かし、十全に参加していた。実践から、まず、NNTであるBは、チームによる繋がりができたことで、教師らの発音指導に対する理解の深まりを感じていた。また、発音指導を行うことに対する自信を得て、フランス人のための発音指導の必要性を説いていた。また、NTであるDは、教師間で連携を取ったことによって授業が改善されたと捉えていた。このように、協働によって生まれた実践コミュニティでは、NNTとNTが学び合う姿勢が見られ、ひいては発音指導を改善させていったことが、海外で発音指導を協働で行うことの意味であったと考える。

S12-3 西村裕代 (イェール大学)、大久保範子 (ノックスイングリッシュネットワーク)
笑いで人をつなぐ:デジタル国際交流における小噺活動の可能性

Hiroyo Nishimura (Yale University), Noriko Okubo (Knox English Network, NPO)
Kobanashi Across Borders: Humor as a Bridge in Digital Intercultural Exchange

 デジタル技術の発展により、オンラインによる国際交流が当たり前となった2022年以降、北米の私立大学と日本のNPO法人教育機関は、定期的なオンライン交流を継続的に実施してきた。日米の学生が、IT技術を活用し、様々な社会問題を議論しながら、創造的なプロジェクトに取り組むことで、グローバル市民としての視点や協働的な学びを深めている。そうした取り組みを進めていく中で、昨今の世界的に分断が進む状況にも目を向け、その緊張を和らげる手段として、発表者は「笑い」の力に着目した。ユーモア・コミュニケーションは、言語の壁を越えて世界の人々が交歓できるグローバル・リテラシーであり、これからの時代の世界共通語であることより(小向、2017)、2024–2025年度の交流活動に日本の伝統話芸である「小噺」を導入した。小噺は短く親しみやすい語り芸であり、国籍、年齢、性別、言語レベルを問わず誰もが楽しめる点に特長がある。また日本の笑いにとどまらず、他文化のジョークやユーモアを小噺活動に取り入れることで多角的な視野を養い、共感を生み出して異文化間の溝を埋める契機となり得る。学習者が自ら発想を膨らませ、アレンジを加えながら演じることで、語彙・文法・発音といった言語的要素や、視線や表情、身振り等の非言語的要素にも注目が促され、より総合的な言語能力の育成が期待される。本発表では、デジタル技術を活用した日米学生交流における小噺活動の実践と、言語教育への応用の可能性について報告する。更に、笑いを通じた異文化間理解の深化と創造的な言語使用の促進について考察し、今後のオンライン国際交流での教師の役割についても提案したい。

2日目 ポスター発表 / Affiches / Poster Presentations 13:00-14:00

P1 天野みどり (大妻女子大学) 「連接構文」の観点からみた逸脱文―主要部内在型関係節を例に―

AMANO Midori (Otsuma Women’s University)
Deviant Sentences from the Perspective of “Conjunction Structures of Multiple Sentences”: Investigating the Internally-Headed Relative Clause

 本研究は、現代日本語の文法規則に違反するとされがちな主要部内在型関係節をとりあげ、文脈や場面の知識と協働する構文成立の捉え方(小松英雄(1988)の「連節構文」の観点)から、その成立を説明する。主要部内在型関係節とは、(1)(2)が示す、節で表される命題(コト的意味)の内部にあるモノのみ(=「酔っ払い」「お金」)が、承接する格助詞ガの表す主格として後続の述語と統語的関係を結ぶように見える現象を指す。
(1)[駅で酔っぱらいが騒いでいたの]が警官に捕まった。
(2)[お金を財布に入れておいたの]が、それがいつの間にかなくなった。
 (2)はノガ節が主格だとすると主節に第2のガ格句(「それが」)があり二重主格制約に違反する。こうした例に基づき、主要部内在型関係節は関係節ではなく副詞節に変化しているとされることもある。しかし、こうした議論が多人数に対する容認度調査の結果に基づいて行われることはほぼ無い。本研究は多様な主要部内在型関係節についての容認度調査を行った上で、「連節構文」理論が考察する2つの場合、すなわち①複数の文の連鎖の中に意味の理解のための構文的鋳型がある場合、②口頭言語において聞き手配慮のために逸脱を起している場合に分け、その成立を説明する。①の観点からは、広くガ格構文が持つ、文外情報に依存する特徴により、聞き手の推論が誘発されること、②の観点からは、「それが」等が実際の言語使用場面では聞き手の理解を助ける冗長的挿入であることを述べる。実際の言語使用には1文では逸脱的で容認度の低い文があるが、その低さは規則に基づき推論を介して成立するためであり、単なる誤用と異なることを述べる。

P2 有森丈太郎 (トロント大学) 社会文化能力をめぐる文化規範の再考 ― 学習者のアイデンティティと教育実践の視点から

Jotaro Arimori (University of Toronto)
Rethinking Cultural Norms Surrounding Sociocultural Competence: Learner Identity and Pedagogical Perspectives

 日本語教育における「社会文化能力」は、場面や相手に応じて「適切に」言語を使用する力として重視されてきた。しかし、日本社会の多様性を踏まえると、この「適切さ」が誰によって、どのような観点から規定されているのかを問い直す必要がある。なぜなら、教科書や授業で提示されるふるまいのモデルが、しばしばステレオタイプ的で一元的な「日本人像」の再生産につながっているからである。さらに、挨拶や謙遜、遠慮といった言語行動における「型」が「望ましいふるまい」として一方的に提示・指導される場面では、「文化を学ぶ」というよりも、恣意性を含む文化規範への従属が期待され、その結果、学習者の文化的・言語的アイデンティティが軽視されるおそれがある。
 本発表では、日本語教科書などに見られる社会文化的記述や練習課題を分析し、そこに潜在する「日本人らしさ」や文化の本質化、ステレオタイプの再生産を批判的に検討する。さらに、批判的文化リテラシーの視点を取り入れ、学習者が他者との関係の中で、自らの価値観やアイデンティティを保持・交渉しながら日本語話者として行動できるよう、教育実践における社会文化能力の位置づけとその扱い方について検討する。
 本発表を通じて、「社会文化能力」を単一的な文化への適応力ではなく、文化的差異を批判的に捉え、交渉し、共に生きる力として再考する必要性を提起したい。

P3 グエン・ヴィエッティ、山川史 (ベトナム国家大学ハノイ校日越大学) ベトナムの大学における「就職面接プロジェクト」の実践から考える教師の役割 学習者のウェルビーイングに焦点を当てて

Nguyen VIet Thi, Fumi Yamakawa (Vietnam Japan University, Vietnam National University, Hanoi)
The Role of Teachers in a “Job Interview Project” at a University in Vietnam: Focusing on the Learners’ Well-being

 本発表の目的はベトナムの大学における上級レベルの日本語クラスで実施した「就職面接プロジェクト」を通して、学習者のウェルビーイングを支える教師の役割を明らかにすることである。
 ベトナムでは日経企業の進出が加速する中、日本語学習者にとってそれらの企業への就職は魅力的な進路の一つとなっている。それに伴い、実践的なビジネス日本語の運用能力に加え、その言語の裏にある文化理解や異文化間コミュニケーション能力の育成も求められている。
 本プロジェクトは3年生を対象に将来のキャリアを具体的に思い描きながら、文化理解やコミュニケーション能力だけではなく、自己理解や職業観を深めることを目的とした。まず、学習者は興味ある業界を選び、企業分析を行なった。その上で、「自己紹介」「志望動機」「大学時代に頑張ったこと」「将来の夢」という4つのテーマに分けて、段階的にロールプレイ形式で模擬面接を繰り返し実践した。授業後のアンケート調査からは、自分の強みや価値観への気づき、他者との対話による学び、自信の獲得などが報告され、学習者が自己の人生目標や社会との関係を内省する機会となっていたことがわかった。さらに、本実践をSeligman (2011)のPERMAモデルに基づき考察した結果、「ポジティヴな感情」「積極的な関わり」「他者との関係」「意味・意義」「達成」の全要素が含まれており、学習者のウェルビーイングを促進する学びであったことが示唆された。
 本発表では、こうした学びが成立するためには教師は単なる知識や技能の伝達者ではなく、学習者の内面に寄り添い、対話的に伴奏する者として再定義される必要があることを提案する。

P4 Mingqi Zhang Simon Fraser University Rethinking Japanese Language Education: Plurilingual Pedagogy in Canadian Post-Secondary Classrooms

章銘棋 (サイモンフレーザー大学)
日本語教育の再考:カナダの高等教育における複言語教育

As classrooms in Canadian post-secondary institutions become increasingly linguistically and culturally diverse, Japanese language educators are called to adapt their pedagogy to foster more inclusive learning environments. While plurilingual pedagogy has been widely discussed in English and European language education, its application in Japanese language classrooms remains limited. Although this presentation is not based on empirical research, it explores why and how plurilingual pedagogy can be practically implemented in Japanese language education, drawing from classroom-based insights, relevant research, and reflection on my experiences as a Japanese language learner and teacher.

It begins by outlining key background concepts—multilingualism, plurilingualism, and translanguaging—clarifying their distinctions and relevance to Japanese language teaching. It then reviews the benefits and challenges of plurilingual pedagogy. To address potential barriers, it offers strategies at both institutional and instructional levels, such as clearer guidelines for language use and formative assessment models.

The core of the presentation focuses on practical implementation. In addition to reviewing the limited research on plurilingual approaches in Japanese language education, it proposes classroom strategies that draw on learners’ linguistic knowledge by comparing Japanese with English, Chinese, and Korean. At the International Conference on Japanese Language Education (ICJLE) 2024, Patricia Duff noted that although the Japanese textbook used at the University of British Columbia (UBC) is designed for North American learners, 60% of students in UBC’s Japanese program reported being born in Asia, with many having Chinese or Korean backgrounds. This highlights the need for pedagogical approaches that reflect learners’ linguistic repertoires.

Proposed strategies include exploring phonological and orthographic patterns in Japanese loanwords from English, kanji–hanzi comparisons, Korean–Japanese grammar and sentence structure analysis, and shared vocabulary across Korean, Chinese, and Japanese—including Chinese-origin terms, Japanese coinages, and English-derived loanwords. The use of false friends is also introduced as a tool for developing metalinguistic awareness. The presentation will also introduce co-curricular ideas, such as language exchange events, that support plurilingual learning beyond the classroom.

This presentation highlights the evolving role of Japanese language teachers as facilitators of inclusive, plurilingual learning environments that reflect the linguistic complexity of today’s learners.

P5 杉原由美、伴野崇生 慶應義塾大学 生成AI時代における日本語アカデミックライティング:複言語使用者の「私のことば」を育む教育実践

Yumi Sugihara, Takao Tomono (Keio University)
Japanese Academic Writing in the Age of Generative AI: A Pedagogical Practice to Foster “My Language” among Plurilingual Learners

 本発表では、大学における上級日本語クラスで実施した、日本語によるアカデミックライティングスキルの伸長をめざす授業実践を報告する。近年、生成AIの使用が教員・学生のあいだに急速に浸透し、「すべての講義課題にChatGPTを使っている」という学生たちの声も聞かれる。理由として、短時間でより整った、読みやすい文章が生成されることを挙げており、いわゆる“タイパ重視”の傾向と合致する側面がある。一方で、そのような利用を続けた先に「自分のことば」はどのように育つのかという問いが浮かび上がる。
 このような現状を踏まえ、本授業(90分×15回)では、論理的なレポート作成プロセスを学ぶと同時に、生成AIとどのように付き合うか、また自分らしいオリジナリティのある表現にどのような意義があるのかを学生とともに探究した。
生成AIとの付き合いについては、学生がそれぞれの使用実態をふりかえりながら、言語学習として意義ある利用法を検討した。さらに、大学の方針(告知等)を参照しつつ、当該クラスにおける生成AI使用ガイドラインを共同で作成した。
 また、「自分らしいオリジナリティのある表現」に関しては、「日本人のような日本語」を追求するネイティブスピーカー中心主義や、「日本=日本語=日本人」という近代国家的枠組みに対する批判的検討を行った。あわせて、複言語・複文化主義の観点をも踏まえながら、複言語使用者としての「私のことば」や言語文化的多様性についても考察し、学生が対話的に自らの日本語使用を見つめ直す機会を設けた。本発表では、こうした授業の内容や学生の声を紹介しながら、日本語教育における新たな課題と可能性を提示する。

P6 南波真知(神戸大学大学院 国際文化学研究科 博士課程後期課程)、田中順子(神戸大学大学院 国際文化学研究科)、 国際結婚家庭出身者の成人後の日本語学習動機 — 語りに基づく質的分析 —

Machi Namba (Doctral Program, Graduate School of Intercultural Studies, Kobe University), Junko Tanaka (Graduate School of Intercultural Studies, Kobe University)
Motivations for learning Japanese as adults from international marriage families: A narrative-based qualitative analysis

 本研究は、成人した国際結婚家庭出身者が、自身の児童期の日本語学習経験を振り返ってどのように評価し、現在どのような動機づけに基づいて日本語と向き合っているのかを明らかにすることを目的とする。研究課題は、日米国際結婚家庭出身者は、成人後にどのような日本語学習動機を持っているのかである。これらの課題に対して、Dörnyei(2005)のL2 Motivational Self Systemを理論的枠組みとして質的に分析を行った。
 研究参加者は、母の第一言語が日本語、父の第一言語が英語という家庭に生まれ、自身は英語を第一言語、日本語を第二言語とするPC(25歳)とQC(22歳)の2名である。2025年4月にGoogle Formsによるアンケートと半構造化インタビューを実施し、音声記録を文字化した後、NVivo(Ver.14)を用いてGrounded Theory Approach(GTA)に基づきコーディングを行った。データは、L2 Motivational Self System(Dörnyei, 2005)に基づき、 L2理想自己、L2義務自己、L2学習経験の三要素に分類して分析した。
 分析の結果、PCは職業的必要性に基づく外発的動機と、文化的関心に根ざした内発的動機の両方を持っていた。一方、QCは心理的抵抗感を背景に無動機の状態にあったが、日本の親族との関係再構築や将来の職業展望を見据えたL2理想自己の存在、およびICTツールの活用可能性が、再学習に向けた潜在的な動機づけとなり得ることが示唆された。”

P7 西野藍 国際基督教大学 タスクベースのシラバスにおける自己表現の可能性:ある短期交換留学生の語りに着目して

Ai Nishino (International Christian University)
Exploring the Possibilities of Self-Expression in a Task-Based Syllabus: A Case Study of a Short-Term Exchange Student

 課題遂行や行動中心アプローチへの注目の高まりとともに、日本語教育におけるタスクベース(Task-based Learning)の実践にも関心が高まっているが、タスクを基盤とするシラバスで構成されたコースの報告は限られている。本発表では、日本の大学における一学期間のタスクベースの日本語教育実践を、表現活動中心の日本語教育における「声」の獲得(西口2020)という視点から捉え、タスクが生み出す対話空間における学習者の主体的な学びのあり様を報告する。2024年春に10週間の中級前半(CEFR B1を目指す)コースを履修したカナダからの短期交換留学生1名を対象に、学期間の成果物(目標設定、各課の課題、レポート、アンケート等)と、コース終了直後および帰国後のインタビューでの語りを分析し、学びの軌跡を描いた。とりわけ「昔話の新しい結末を書く」というクリエイティブライティングの課題に注目し、学習者が自身の経験を日本語表現に重ね、自分の言葉として紡いでいく過程を描出するとともに、同様の課題における生成AIの活用とその限界についても考察した。分析からは、タスクが学習者の自己表現を開く可能性、そして授業デザインにおける実践的な示唆が導かれた。

参考文献:西口光一(2020)『新次元の日本語教育の理論と企画と実践―第二言語学と表現活動中心のアプローチ』くろしお出版

P8 Naoko Nemoto Mount Holyoke College On the fifth anniversary of the Covid-19 pandemic: Exploring learners’ feelings toward assessment methods and AI-use assignments in college Japanese courses     

根本菜穂子 (マウントホリヨーク・カレッジ)
On the fifth anniversary of the Covid-19 pandemic:  Exploring learners’ feelings toward assessment methods and  AI-use assignments in college Japanese courses        

This year marks the fifth anniversary of the Covid-19 pandemic. Now that the college class of 2024, who began their college journey through distance learning, has graduated, current college students have experienced the pandemic-caused changes in the learning environment when they were in high school or middle school (e.g., Skinner 2022). The present paper explores the state of mind of Japanese learners in the college class of 2025 to 2028 in terms of the quality of their pre-college learning, and current assessment methods and possible use of AI in their college Japanese courses, using the anonymous survey results collected from 35 college Japanese learners.

The survey results show that between January 2020 and June 2022, more than 91% of the participants had synchronous remote instruction and 54.3% had hybrid instruction. 37.1% experienced frequent class cancellations. 48.6% had lenient attendance policies, fewer (or no) in-class (including synchronous online) tests and quizzes, and less homework during that time. 95.7% said that the changes in the learning environment caused by the COVID-19 pandemic affected the quality of their learning.

As explored in Polisca et al. (2022), the COVID-19 pandemic changed language assessment in higher education. Teachers around the world have had to make adjustments to their course content and assessments in response to the forced changes caused by the pandemic, and we imagine that some changes have not been reversed to pre-pandemic standards. For example, the Japanese program whose students participated in the current study used frequent small in-class vocabulary and kanji quizzes prior to the pandemic; however, as of the spring semester of 2025, they no longer include any of these quizzes in their assessment. We will examine whether the students feel that the in-class quizzes help their learning.

In addition, 74.3% of the participants experienced more use of technology in the classroom during the pandemic. The questions asked include how often they use generative AI now and whether their Japanese courses should use translators and generative AI. We will discuss their responses in the context of their digital learning experiences during the pandemic.

P9 福良直子 大阪大学教育観はいかに語られたか -理工系研究室の教員に対するインタビュー中の「冗談」に着目して-

Naoko Fukura (The University of Osaka)
How Views on Education Were Discussed: Focusing on “Jokes” during the Interview with a Faculty Member in the Science and Engineering Laboratory

 インタビューは、インタビュアー(Ir)とインタビュイー(Ie) が協働で意味を構築する相互行為としてのプロセスである(ホルスタイン、ジェイムズ・グブリアム、ジェイバー 2004,やまだ2006)。本発表では、日本の某大学の理工系研究室の教員を対象に、留学生への指導に関して尋ねた約1時間のオンラインインタビューで教育観がいかに語られたか、そのプロセスを明らかにする。教員は、学生が委縮せず研究に取り組めるよう、冗談や笑いを重視しており、本調査でも20箇所の冗談が観察された。冗談とはユーモアを含む表現であり、話者が意図的に使う言語行動であると定義する。ユーモアは上野(1992)の3分類(遊戯的、攻撃的、支援的ユーモア)を援用した。文字化したデータをエピソード単位で切片化し、冗談を含む発話に着目して、特徴を分類した。その結果、Ieによる冗談に対するIrの反応に変化が見られた。序盤ではIrは冗談に反応していないが、次第に冗談の一部を繰り返し、終盤ではIr自らも冗談を言うようになった。このような変化に伴い、Ieの教育観が詳細に語られた。Ieは研究室運営において、学生の自主性を重視し見守りながら、必要に応じて介入し、指導を行っていた。Ieによる冗談は、研究指導や研究室内のコミュニケーションを円滑化し、構成員の人間関係構築に貢献しているものと言える。インタビュー時の冗談によっても同様にIrとのコミュニケーションが円滑化されており、Ieの教育観が冗談を介して協働的に語られていた。Ieの教育観は、理工系研究室での円滑な人間関係構築にもとづく研究指導および研究室運営に多くの示唆を与えるものと言える。(698字)

<引用文献>
上野行良(1992)「ユーモア現象に関する諸研究とユーモアの分類について」『社会心理学研   
 究』7-2, pp.112-120
ホルスタイン、ジェイムズ・グブリアム、ジェイバー(2004)山田富秋他訳『アクティヴ・     
 インタビュー: 相互行為としての社会調査』せりか書房(Holstein,James A. and Jaber F.
     Gubrium. (1995)The Active Interview. Thousand Oaks, CA: Sage. )
やまだようこ(2006)「非構造化インタビューにおける問う技法 -質問と語り直しプロセス  
 のマイクロアナリシス」『質的心理学研究』 6,pp.194-216. 

P10 尹 智鉉 中央大学 高次の学習・認知スキルの涵養を目指した国際オンライン協働学習のデザイン―ブルームのデジタル学習目標分類に基づいて―

Jihyun Yoon (Chuo Uiversity)
Designing Collaborative Online International Learning for the Cultivation of Higher Order Thinking Skills: Based on Bloom’s Revised Digital Taxonomy

 本発表では、日本・韓国・台湾の3カ国間で実施された国際オンライン協働学習(COIL)をブルームのデジタル学習目標分類(Bloom’s Revised Digital Taxonomy)に基づいて考察した結果を報告する。COIL活動では3カ国の学生が4~5人ずつ10グループに分かれてプロジェクトワークを行った。プロジェクトワークの内容は、「世界に紹介したい日本の文化に関するデジタルコンテンツを作成すること」であった。そして、ブルームのデジタル学習目標分類とは、1956年にベンジャミン・ブルームが開発した教育目標分類法を現代のデジタル環境に適応させたものである(Churches,2010)。この分類法では、学習プロセスにおける思考活動を、①記憶する、②理解する、③応用するという3つの「低次の学習・認知スキル」(LOTS:Lower Order Thinking Skills)と、④分析する、⑤評価する、⑥創造するという3つの「高次の学習・認知スキル」(HOTS:Higher Order Thinking Skills)に分類している。デジタル版では、各レベルにおいてICTツールやソーシャルメディアを活用した学習活動が組み込まれており、この分類法を活用することで、教育者はデジタル時代の学習活動を体系的に設計し、高次思考能力の育成を目指すことができる。本研究では、3か国間のCOIL活動における高次の学習・認知スキルの涵養を目指した授業設計の可能性と課題を、主に日本の大学で学ぶ言語ホスト側に焦点をあてて検討する。

P11 吉澤明子 マウントアリソン大学/モンクトン日本語センター CLILを活かした継承語教育の実践:教室と社会をつなぐ学習デザイン

Akiko Yoshizawa (Mount Allison University / Japanese Cultural Association of Moncton)
Heritage Language Education with CLIL: Bridging Classroom and Society

 デジタル化の進展により、オンライン教材の活用や遠隔地の人々との交流が容易な時代となった。教材選択の幅が広がることは、継承語教育にとって大きな利点である。一方、それらをいかに効果的に活用し、学びを生み出すかは重要な課題である。
 本発表では、CLIL(Content and Language Integrated Learning)の「4つのC」(Content / Communication / Cognition / Culture)の枠組みに基づきデザインしたテーマ型継承語クラスの実践を紹介し、教室と社会をつなぐ学習デザインの可能性と今後の課題について考察する。
 本実践のテーマは「日本のカレー」である。日本のカレーは近年、世界の伝統料理に選出され国際的な認知度が高まっている。このような注目トピックは、豊富な教材素材を活用できる点で大きな魅力である。本実践でも、日本のカレーを特集した動画や、日本国内で実施されている「日本カレー祭り」のカタログ等、多様な素材を活用した。実践では、ご当地カレーと都道府県の特産物を関連づけて学び、各自食べてみたいカレーを選定した。その後、日本の家族や親戚にビデオ通話で学習内容を紹介し、選んだカレーの試食を依頼した。試食後、インタビュー形式で感想を収集し、教室内で共有した。総まとめとして、地元食材を使ったオリジナルカレーを考案、調理し、試食会を実施した。本発表ではこれらの多様な活動を「4つのC」の枠組みにどのように位置づけたかを示す。併せて、デジタル技術を活かして学びの場を教室の外に広げ、教室内での体験活動とつなげる学習デザインの可能性を考察する。

P12 リベラトリわかな 国際交流基金トロント日本文化センター「オンラインまるごと日本語講座」における成人学習者が期待する訂正フィードバックと教師が与える訂正フィードバック方法についての分析

Wakana Liberatori (The Japan Foundation, Toronto)
Adult Learners’ Attitudes towards Corrective Feedback and Teachers’ Implementation in Online Marugoto Japanese Courses

「まるごと」は従来の文法積み上げ式の教授法とは異なり、コミュニカティブ・アプローチでCan-doを用いた課題随行型の教授法である。
 本研究では、実際の場面で日本語でコミュニケーションができるようになることを目標とした成人向けの「オンラインまるごと日本語講座」(以下、まるごと講座)で、発話にエラーが聞かれた際、学習者は教師にどのような訂正フィードバック (corrective feedback)を求めているのかについてアンケート調査を実施した。更に、まるごと講座の1(入門)~6(中級2)レベルの授業録画ビデオから、教師が与える訂正フィードバック方法をデータとして可視化し、学習者の求めている訂正フィードバックと教師が与える訂正フィードバックが果たしてどれだけ合致しているのか、またそれが「まるごと」の理念にどれだけ沿っているのかについて考察した。
 調査の結果、初級レベルの学習者の大半は、誤用があった際に明示的フィードバックを好む傾向にあり、教師が与えるフィードバックもまた明示的フィードバックが最多であった。この結果は本来「まるごと」が求めているアプローチとは異なるように思われる。しかし中級レベルに上がるにつれて、学習者が求めるフィードバック、教師が与えるフィードバックともにリキャストが徐々に多くなっていった。さらに中級以上の授業でディスカッションが積極的に取り入れられ、学習者がある程度一人で長く話せるようになってくると、誤用があっても教師が訂正しないケースも多く見受けられ、学習者のレベルが上がるほど文法の正確さよりも伝わるかどうかがより重視されていることが明らかになった。

P13 渡辺文生 山形大学 大学院共通科目におけるL1/L2グループワーク談話の分析

Fumio Watanabe (Yamagata University)
An analysis of L1/L2 group work discourse in graduate general education courses

 本研究の目的は、大学院の共通科目として設置されている課題解決型授業おけるL1/L2場面のグループワークの談話について、国際共修の観点から質的に分析することである。分析対象データは、日本の大学において2021年と2022年に行われた大学院共通科目における専攻横断型で日本人学生・留学生が混じったグループによる課題遂行型会話(3グループ、7会話)である。
2019年の中央教育審議会では、日本の大学院の教育において、高度な専門的知識と普遍的なスキル・リテラシー等を身に付けさせるため、複数の専攻を横断・連携した取組として共通コア科目の設置などの重要性が指摘された。それを受け、現在の日本の大学院では共通科目の設置が進み、それらの科目の中には情報伝達力・コミュニケーション能力・チームワーク力の養成としてグループワークを中心とした課題解決型授業も含まれている。
 大学院に入学する留学生にとっては、自分の専門とは異なる研究をする初対面の日本人大学院生と分野横断型のテーマについて日本語で議論し、グループワークに貢献することが要求されるということになる。特に、大学院で初めて日本の大学に入学するような留学生にとっては非常に負担の大きい要求であると言える。本研究は、これらの共通科目に関してどのような留学生の日本語支援が必要なのか明らかすることを目指し、グループワーク談話の実態を捉えようとするものである。この発表では、異なる言語文化を背景とした学生によって構成される学びの場としての国際共修という観点から、相互理解のために行われる言語調整の過程について報告していく。

8/20 1600-17:00 Panel Discussion on Language Teaching in the AI Era

Abstract: 

This panel, consisting of four instructors of various languages at UBC, explores diverse teacher perspectives on integrating Generative AI (GenAI) into language education. Panelists will reflect on their varied experiences, discussing how GenAI has reshaped pedagogical practices, challenges encountered, essential support mechanisms required for effective implementation, and aspects of teaching that remain uniquely human. The discussion seeks to provide valuable insights for educators aiming to balance technological innovation with effective teaching practices. The discussion will be conducted in English. 

Discussants: 

Qian Wang, Chinese Language Program 
Luisa Canuto, Italian Program 
Eurie Shin, Korean Language and Culture Program 
Janet Um, Sanskrit Language Program 
Hiromi Aoki (Moderator), Japanese Language Program

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