CAJLE2023年次大会 研究発表要旨 / Résumés / Abstracts   

口頭発表・ポスター発表タイムライン
  • 8/17
    10:25-11:50
    Session 1 【Mount Royal I】/ Session 2 【Mount Royal II】

  • 15:00-16:25
    Session 3 【Mount Royal I】/ Session 4 【Mount Royal II】
  • 16:45-17:45
    ポスター発表 【Grand Salon】
  • 8/18
    9:00-10:25
    Session 5 【Mount Royal I】/ Session 6 【Mount Royal II】

  • 15:10-16:35
    Session 7 【Mount Royal I】/ Session 8 【Mount Royal II】

1日目:口頭発表 / Présentations orales / Oral Presentations

**【1日目 10:25-11:50 Session 1】【場所:Mount Royal Ⅰ】**

S1-1.小林ヒルマン恭子(ブリティッシュコロンビア大学) :  オノマトペの音象徴に注目した学習ユニットの実践報告  

Kyoko Kobayashi Hillman (University of British Columbia)
Report of Study Unit for Onomatopoetic Expressions Focusing on the Sound Symbolism

 日本語の特徴の一つとしてオノマトペ表現が多くの教科書や補助教材で取り上げられているが語彙の一部として意味に注目して導入を行っている場合が多い。マンガやアニメに親しんだ学習者ならある程度の予備知識があると考えられるものの、和語としてのオノマトペは絵や場面などを提示して教えてもオノマトペの音象徴について触れなければ学習者には習得の難しい項目ではないかと考えた。そこで音象徴の紹介を含めたオノマトペの学習ユニットの試みについて、本発表で報告する。
 この試みのために中級の50分授業2コマを使用した。日本語の語彙構成について考えた後、学生はペアで擬声語・擬態語の説明文を読み、使ったことのあるオノマトペ表現について振り返り、話し合いをした。その後、教師が浜野(2014)に基づいたオノマトペの音象徴の概念について紹介し、清音と濁音の違い、長音と促音の違い、一音節語基と二音節語基の構造などについて説明した。メタファーとしてオノマトペの意味の拡張があることにも触れた後、使用頻度の高いオノマトペ表現を紹介し、学生はペアでその練習問題を行った。108名の学生がこの学習ユニットを経て、作文活動を行ったり、テストを受けたりした。書く活動では学習したばかりのオノマトペ表現の使用頻度は低いままであったが、テストでは多くの学生が高得点(即時テスト平均78.7%、遅延テスト平均 90.3%))を出したため、少なくとも読んで認識できるレベルには達したと言える。
 オノマトペの音象徴は日本語の音とそのイメージであり、他の和語の音とも関係があると考えられ今回の試みから更に効果的な教授法について探究を続けたいと考えている。

S1-2.王伸子(専修大学) : ボイスミラーリングを取り入れた音声アクティブラーニング 

Nobuko Wang (Senshu University)
Voice Mirrorring-incorporated Audio Active Learning

 発表者は、プロのナレーターが作成した音声素材「ボイスサンプル」が音声表現力の獲得に効果を発揮し、4技能の底上げに有効であるという研究を続けている。言語教育の会話教材は数多くあるが、一定の質を確保した総合的音声教材は少なく、作成が期待されている喫緊の課題でもある。そこで(A) モデルとなる音声録音やナレーションを聴き、それを再現しようとするプロセスを新たに「ボイスミラーリング」と名付け、その教材と指導法を構築・公開し、音声表現を効果的に訓練する素材として提供し、(B)日本語の環境が十分ではない日本語学習者にも効果的な練習方法を広める、という2点を柱として教材開発に取り組んだ。ナレーションを活用した教材研究では、構造言語学的観点だけでなく、動物行動学的な視点も重視し、インプットの量と反復練習、さらに聴覚フィードバックが音声表現の習得に貢献する点に着目した研究に基づいて、反復プライミングとミラーリング効果を最大限に活用して教材を作成している。従来の研究でも、繰り返し刺激となった音声は、後にターゲットとなる語彙等に出会ったとき記憶が活性化し学習が促進されると、プライミング効果について述べられている。しかし、そうした研究が教材に活かされているのは、多くのインプットを与えるという量的な問題が中心であり、音質的にも内容的にも質の高いものを与えるという視点はやや欠けていると思われる。さらに、大学生のメディアへの関心を調査した結果、質の高いメディアのインプットが少なく、YouTube等のインターネット上からのインプットが多く、それが少なからず影響している点があることも判明した。本発表ではそうした背景にも言及する。

S1-3.John Esposito (Chukyo University) : A Mnemonic Approach to Kanji Proficiency

ジョン・エスポジート(中京大学) 
漢字熟達のための記憶を助ける方法

Interest in the Japanese language has grown considerably as a consequence of Japan’s increasing influence in the world. Along with this interest comes the challenge of teaching the language to learners, most of whom are not familiar with its complex orthography. Other than for those whose linguistic background includes Chinese characters, the major obstacle is the thousands of kanji that must be mastered in order to read and write Japanese. Devising materials for effective instruction rests on the interrelated questions of the nature of kanji, how they are cognitively processed, and if this processing is affected by psycholinguistic or sociolinguistic factors. Due to a lack of theoretical certainty in these areas and to the concomitant biases of textbook developers, a range of learning options have been devised with varying degrees of success. While the methods for second-language learners tend to follow those used in Japanese public schools that rely on rote memorization, there has recently been more emphasis placed on learning characters in context as either parts of compounds or in short sentences. 

Regardless of the method employed, learning kanji place inordinate demands on the memory. Mnemonic techniques have thus become a common component of kanji course books and learning manuals as they allow for more efficient learning of large amounts of new material. When such techniques appear in kanji textbooks, they are invariably applied in a linear fashion without much regard to mnemonic principles. The method described herein is an attempt to address these issues in a manner that transforms the mnemonic approach to kanji proficiency from a reliance on an abstract linear device to one that comprises an integrated cognitive network that links the facilitator, learner, and language in a pedagogically proficient relationship. After a brief review of the theoretical issues involved, including how they impinge on various kanji course books and curriculum design, this paper introduces the learning sequence of a mnemonic network, which has been developed specifically for second language acquisition. An extended example of the sequence is provided to demonstrate the efficacy in employing such an approach with adult learners. 

**【1日目 10:25-11:50 Session 2】【場所:Mount Royal II】**

S2-1.中川康弘(中央大学) : ビジターセッションにおける「教育の不確実性」と「社会化」―大学日本語クラスの実践に着目してー

Yasuhiro Nakagawa (Chuo University)
“Uncertainty in Education” and “Socialization” during a Guest Speaker Session: A Study of College Japanese Classrooms in Japan

 社会学者ルーマンは、教育者が意図する学習者の「自律化」は「他律化」であり、試験や体験は学習者の自己創出を阻むものとしたうえで、学習者が、潜在する自律性や興味関心をもって相互行為の中で相手と折り合いをつけることを「社会化」と呼んだ(Luhmann1987)。本研究では「社会化」と教育の限界を示した田中(2004)を手がかりに、大学の少人数留学生初級クラスでのビジターセッションに着目し、留学生に潜在する自律性や興味関心から生じる「社会化」と日本語教育との関係を探ることを目的とした。 セッションでは、オンラインで「マニアックな趣味」をテーマに発表と質疑応答が行われた。留学生には事前に教師の意図する既習文法や表現を意識させ、ストラテジーに関するチェックシートの終了後提出を依頼した。そして「教育の不確実性」、すなわち「文法項目や会話のストラテジー使用等を意図する教師の管理を離れ、学習者自身が自由に学ぶさま」に焦点を当て、参与観察とチェックシートを分析資料とした。 結果、教師が意図したタスクでは、既習文法や表現、ストラテジーを意識する余裕がないことが確認された。だが、合間に自然発生した自由会話にK-popやグッズの話題等のやりとりがみられ、そこではストラテジーも駆使し、インターアクションを行っていた。それらは教師の意図を離れて教育の不確実性によりもたらされたものであり、留学生に潜在する自律性や興味関心から生じていたことから、「社会化」が促進されていたことがわかった。また学内に併存されがちな留学生と日本人学生の垣根を超えた交流可能性もうかがえ、改めて、留学生の「社会化」に日本語教育をどう位置づけるかが課題として示された。

S2-2.Nina Langton (University of British Columbia) : Introducing Ainu Culture in Beginning Japanese Language Classes: Indigenizing the Curriculum through Collaboration and Open Educational Resources

ナイナ・ラングトン(ブリティッシュ・コロンビア大学)      
初級日本語クラスでアイヌ文化を取り上げる:オープンエデュケーションリソース(OER)でコラボレーションを促す授業の先住民族化

In recent years, educational institutions have been actively promoting Indigenization of the curriculum in response to not only the Calls to Action of the Truth and Reconciliation Commission report, but also in recognition of the valuable pedagogical approaches that are implied within an Indigenous pedagogy, including relational, cooperative and holistic learning, storytelling, and a focus on experiential learning emphasizing the importance of place. Through these approaches, students, who may be studying as uninvited guests on colonized territory, or who may themselves be colonized people, are invited to learn about the history, culture, contemporary situation and resilience of Indigenous peoples, and, ideally, begin to contribute to the discussion around reconciliation. This presentation will outline one instructor’s efforts to Indigenize lower-level Japanese language classes by introducing content about the Ainu, the Indigenous peoples of Japan, through level-appropriate and pedagogically sound instructor-created and authentic learning materials. The bulk of the materials are gathered in an online e-text that has been collaboratively created by instructors and students, supplemented with existing materials created by Ainu artists, writers and teachers, and published as an Open Educational Resource that can be used freely by other instructors and independent learners. The project has evolved over the past three years with various modules being tested and used in classes in an ongoing process of curriculum and learning materials creation and revision that honours student feedback. While some students engage enthusiastically with the materials, some are less proactive, but the intent is to at least encourage students to consider a different worldview that may foster an engagement with issues of diversity while improving their Japanese language skills. Various examples of the OER materials and H5P-created exercises that accompany them will be demonstrated during the presentation, and it is hoped that this will encourage further collaboration with other instructors and their students.

S2-3.齊藤美穂(神戸大学) : 日本語教育実践のピア・レビューに見られる日本語非母語話者の観点

Miho Saito (Kobe University)
Perspectives of non-native speakers of Japanese in peer reviews of Japanese language teaching practicum

 本発表では、日本国内の大学院で学ぶ日本語教育実習科目受講生が、互いの実習をどのように評価しているかについて、評価者が日本語母語話者か非母語話者であるかという背景の違いに注目して分析した結果を報告する。
日本語教育推進法の制定に伴い、日本語教師の養成に対する制約もより厳格化されつつある。文化庁(2019)による区分に従えば、大学学部や大学院における日本語教師養成はいずれも基本的には「養成」課程にあたる。しかし、先行研究でも指摘があるように、大学院の養成課程の受講者には、日本語の非母語話者である留学生が含まれる可能性が高い。母語話者と非母語話者間には、教育実習における意識(堀恵子2007)や、教師役割観(加納千恵子2010)などにおいて違いがあることが先行研究により示されている。非母語話者日本語教師の養成に当たっては、彼らが養成課程に期待することや、重視している点、逆に見落としがちな点などをふまえ、指導に当たる必要がある。
ただし、上記の研究は直接的にアンケートで彼らの意識を問うたものであり、回答の時点で意識にのぼらないものがある可能性もある。安井朱美(2022)は、教育実習生の観察者としての気づきを調査し、その結果から彼らが教育実習や教師役に求めるものが示唆されたとしている。そこで本研究では、発表者の勤務する大学院で行った日本語教育実習における、受講生間のピア・レビュー(項目ごとの評点、及び、よかった点・改善すべき点に関する自由記述の内容)をデータとして分析を行い、日本語母語話者、非母語話者それぞれの評価を比較することで、非母語話者の気づきに見られる特徴を探る。

**【1日目 15:00-16:25 Session 3】【場所:Mount Royal Ⅰ】**

S3-1.渡辺文生(山形大学) : 「共通語としての日本語」における言語調整のストラテジーとその表現

Fumio Watanabe (Yamagata University)
Strategies and expressions for linguistic adjustment in “Japanese as a lingua franca”

 本研究の目的は、「共通語としての日本語(Japanese as a lingua franca: JLF)」における相互言語調整行動に見られるストラテジーとその表現について、日米の大学生によるオンライン会話データをもとに、質的に分析し考察することである。分析対象データは、日本の1大学と米国の2大学が連携して2020年と2021年に実施した「日米大学オンライン会話プロジェクト」において、第一言語話者(L1)場面、第二言語話者(L2)場面、第一・第二言語話者(L1-L2)場面の3つの場面を設定して収集した課題遂行型会話(25グループ分)である。

 JLFにおける言語調整については、発話の構造的なタイプ、疑問表現、相手発話の繰り返しなどについて、L1話者・L2話者それぞれの使用傾向をもとに考察が行われ、それらに共通するストラテジーとしてやりとりする内容に対する「明確化」が挙げられている(竹井ら 2023)。本研究では、「明確化」に関連する表現を複数取り上げて、異なる言語の話者がJLFを用い、協調して会話を作り上げている過程を分析する。その表現の一つとして「〜したいですか」が挙げられる。L1場面では、相手の欲求に直接的に言及することは相手の領域に踏み込むことになり、避けられる傾向があるが、JLFにおいてはL1話者・L2話者ともに用例が見られた。「〜したいですか」は、ポライトネスに関わる相手への配慮よりも「明確化」のストラテジーが優先されるという点でJLFを特徴づける表現と言えよう。発表では、多様化する社会において日本語がコミュニケーションのツールとして使われる場合のあり方について議論したい。

S3-2.三浦謙一(フランクリン&マーシャル大学) : 教科書至上主義脱却:多様性に対応する日本語教育

Ken’ichi Miura (Franklin & Marshall College)
Dismantling Textbooks: Japanese Language Education Toward Diversity 

 従来の日本語教育では、教科書に沿って、語彙、文法を導入する、という形式が一般的である。また、練習問題等も文法中心であることが多い。しかし、そのような画一的な使用法では、学習者が必要としている言語能力が養えない場合も多々あり、学習者の多様性に対応することも不可能であろう。本発表では、本学での教材、学習法を提示しつつ、そのような教科書至上主義からの脱却、学習者と教師協同の学習内容構築を提唱する。
1)教科書の文法を基にして学習者が必要とするであろうと思われるタスク中心にスケジュールを組んだ。タスクに必要とされる文法は、随時教科書の順番にとらわれずに導入した。
2)語彙は、教科書の語彙に教師、学習者が新しい語彙を加えたり、既存の語彙を削除したりして新しい語彙表を作成した。例えば形容詞、「色」「性格に関する語彙」等は、学習者に習得したい語彙を英語で提示してもらい、語彙表を作成した。
3)「めっちゃ」「ガチ」等の話し言葉、若者言葉を練習する機会も作った。教科書のインフォーマルな会話練習は不自然なことが多いが、本学ではビデオ等で自然な会話を紹介し、学習者は、語彙等を取捨選択しつつ練習した。
4)学習者の長所、短所はさまざまである。評価の基準も文法の正確さを中心とすべきではない。例えば、口頭試験において、ACTFL OPIの基準をもとに「総合的コミュニケーション、内容の濃さ、自然さ、文法語彙の正確さ」の基準を設定した。
5)課題は、学習者の個性、興味を重視し、学習者自身が伝えたい内容を選んで書く形式を多くした。
このような方法の効果、学習者からの反応、今後の課題を提示し、参加者とともに可能性を考察したい。

S3-3.Jun Takahashi (Colby College) : Exploring how struggling JFL learners experience WCF: A classroom case study of first-year college students

高橋淳(コルビー大学)
つまづいている日本語学習者はどのように訂正フィードバックを経験するか:日本語一年生のケーススタディー

Studies on student engagement with feedback revealed that engagement is a dynamic, multi-faced, and situated practice that influences and is influenced by individual and contextual factors. Despite the increasing amount of research on student engagement with written corrective feedback (WCF), two areas have not received sufficient research attention: foreign language (FL) learners and struggling learners. In order to fill these research gaps, his study aims to understand how JFL struggling learners experience WCF. 

In this study, following Ellis (2010) and Han and Hyland (2015), engagement with WCF was conceptualized as cognitive, behavioral, and affective engagement. In addition, this study explored individual and contextual factors. The focal participants were three learners in a first-year course, who were identified as struggling learners based on class observation and performance on daily assignments, quizzes, and exams. The data were collected through various sources, including semi-structured interviews, retrospective verbal reports, class observation, course documents, and student texts. Text analysis and context analysis were conducted. Text analysis was conducted to analyze types of mistakes, types of WCF, and observable actions. The content analysis included the depth of the process of WCF, the use of metacognitive strategies, learner beliefs, attitudes, and emotional responses to WCF.

The data revealed that struggling learners exhibited varying levels of engagement with WCF, suggesting that individual factors and contextual factors can potentially impact how learners cognitively and emotionally process the WCF and revision operations. The participants generally thought of WCF as a learning tool, and they understood their errors when they received explicit WCF. However, implicit WCF was less helpful to understand their errors, especially in the case of relatively complex errors. When they struggled to understand, they also showed various forms of behavioral engagement such as looking up grammar explanations online; however, it was rare for students to achieve full understanding. Additionally, some participants hesitated to ask questions to their teachers and peers as they did not want to look unprepared by asking very simple questions. This study argues that teachers should tailor WCF to suit the learning needs of their students, as well as provide accessible resources to struggling learners.

**【1日目 15:00-16:25 Session 4】【場所:Mount Royal II】**

S4-1.Masako Shimada (University of Calgary) : Effects of Japanese Prosody on Comprehensibility: A Comparison of Techniques for Training L2 Japanese Prosody

島田雅子(カルガリー大学)   
日本語のプロソディーが「理解しやすさ」に与える影響:第二言語としての日本語のプロソディーの教授法の比較

 Adult language learners often produce second language (L2) speech with a foreign accent. While oral communication is an essential way to convey the message that the speaker has in mind, that message may not always be received as intended especially when it is spoken with a foreign accent. Recent studies have shown that prosodic features, such as stress, duration, and changes in pitch, have a great influence on the perceived strength of a foreign accent and—more importantly—on listeners’ understanding. Thus, improving these aspects of speech may lead to more successful communication.

To distinguish meaning, Japanese relies heavily on prosodic cues such as pitch accent (ka’ta “shoulder” vs. kata “form”) and segmental length contrasts (kori “stiffness” vs. koori “ice”). In spite of the importance of prosody, research on L2 Japanese prosody teaching has advanced little. In the current study, therefore, I developed prosody training using two methods: embodied techniques (ET) and computer-assisted techniques (CAT). Training was incorporated into a pretest-posttest-delayed posttest design to (1) investigate the extent to which the accuracy of L2 perception and production of Japanese prosody changed over the course of the experiment; (2) compare the effectiveness of the two methods; and (3) examine whether the improvement was sustained over time if perception and production were improved immediately after training.

Seventeen English speakers with intermediate L2 Japanese proficiency were placed in one of two groups: ET or CAT. They received prosody training for three weeks using one of the two types of techniques. Participants also completed perception and production tasks, which required them to listen to and produce words with different accent patterns and segmental length distinctions. Their performance was evaluated by 18 Japanese listeners for intelligibility and comprehensibility.

The findings indicate that both intelligibility and comprehensibility of L2 speech steadily improved after training. L2 perception also mirrors the production results, with better performance after training for both groups. Thus, the results highlight the positive effects of prosody training with both methods. Raising awareness and providing focused instruction likely led to the success, and these techniques may be extended to prosody training in other languages.

S4-2.天野みどり(大妻女子大学) : 現代日本語の格助詞と接続助詞の機能的重なりー逆説的表現の容認度調査からー

Midori Amano (Otsuma Women’s University)
Functional Overlap of Case Particles and Conjunctive Particles in Modern Japanese: From a Study on the Acceptability of Adversative Conjunctions

 逆接の接続助詞はガ・ノニ・ケレドモ・ノニのように種類が多く、さらに逆接の意味を表しながら容認度がゆれ、接続助詞化の途上にあると言えるようなノヲ・ノガ・モノヲ・モノガ等の一群の表現もある(寺村(1978)他)。これらは逆接を表す表現として括られるが、それぞれに文法的特徴や意味を異にしている。
 本研究では、格助詞から接続助詞的機能を拡張したノヲ・ノガ・モノヲ・モノガについて(1)実例調査により共起要素の傾向・パターン化を観察した上で(2)逆接の接続助詞として定着しているノニも加えた容認度調査により容認度の低下を招く要因・逆接の意味の異なりを示す。すなわち、1.ノニは「食い違い」を表す助詞として定着し、主節述語にニ格と関わらない様々な述語が生起可能なこと、2.ノヲ・モノヲは他動詞文の目的格ヲの意味を引き継ぎ主節述語に意図的行為性の意味が必要なこと、3.ただし、接続助詞的モノヲはノヲよりも慣用化が進み独特の意味を生み出していること、4.それはモノヲの接続助詞化が古く上代から存在することが関与していると考えられること、5.ノガ・モノガは主格のガの意味を引き継ぎ主節述語に変遷性の意味が必要なこと、6.ノガに比べモノガは出現するジャンル・用法に偏りがありノガよりも使用が限られていること、7.これにはモノの語彙的意味が関与していると考えられることを述べる。
 本研究は、変化途上の形式が派生元の機能・意味を引き継ぎ、容認度の異なりや意味の違いを生み出していることを示し、多様性を内包する日本語を第二言語として教育する際に活用できる、日本語文法研究の研究手法(実例観察・内省判断調査)とその成果を示すことも目的とする。

S4-3.加山裕子(マニトバ大学),大嶋百合子(ビクトリア大学・マギル大学) : 日本語における母親の副助詞「ワ・モ」のしようと項構造との関連

Yuhko Kayama (University of Manitoba), Yuriko Oshima-Takane (University of Victoria, McGill University)
The use of particles WA and MO in parental input and its relation to verb argument structures in Japanese

 日本語母語児の動詞の項構造獲得に関して、様々な研究がされている。格助詞「ガ・ヲ」が動詞の自他の区別におおきな役割を果たしているという研究結果(Matsuo et al. 2012)がある一方、格助詞は親の言語インプットでは極端に頻度が低く、格助詞の使用は子供の動詞の項構造獲得の重要な手がかりにはなっていないという報告(加山・大嶋2022)もある。

 子供の副助詞「ワ・モ」の発話は言語発達の比較的早い時期(2歳程度)に始まっており(Matsuoka et al. 2006)、しかも、副助詞は格助詞「ガ・ヲ」と異なり親の言語インプットで省略されることがないため、項構造の獲得に何らかの役割を果たしている可能性が考えられる。

 本研究では、3名の日本語母語児とその母親の長期にわたる自由発話データを分析し、動詞とともに使用された母親の副助詞「ワ・モ」と子供の動詞の自他の獲得がどのように関連しているかを調査した。母親のインプットでは、自動詞文の主語に「ワ・モ」が最も多く使用されていたが、自・他動詞の区別を明確にするはずの他動詞文の目的語ではどの母親も副助詞の頻度が低かった。他の母親に比べ副助詞を多く使用した母親の子供は他の子供より早く2;06程度から副助詞を動詞と共に発話する傾向が見られた。しかし、母親の副助詞の使用によって動詞の自他の区別が明らかになる証拠は見当たらず、副助詞の使用だけでは自動詞・他動詞の区別は難しいと考えざるを得ない。加山・大嶋で論じられているように、今後、助詞だけでなくインプットに現れる様々な文構造と格助詞・副助詞の組み合わせによって子供の項構造獲得への影響を検討する必要があるであろう。

2日目:口頭発表 / Présentations orales / Oral Presentations

**【2日目 9:00-10:25 Session 5】【場所:Mount Royal I】**

S5-1.三井晶子(ヨーク大学),青木恵子(クイーンズ大学) : 日本にルーツを持つカナダ育ちの若者にみる学びの多様性:日系カナダ人学生が大学で日本語を学び始める動機

Akiko Mitsui (York University), Keiko Aoki (Queen’s University)
The diverse ways of learning Japanese among Japanese adults of Japanese background raised in Canada: What motivated Japanese Canadians to take Japanese courses at university?

 海外に住む日本にルーツを持つ若者の中には、大学生になって初めて日本語を学ぶ者もいる。家族が既に日本語を話せないケース、日本語を母語とする親がいても家庭で日本語を使わなかったケース、家庭では日本語で話したが補習校や継承語学校に通わなかったケースなど様々である。彼らが大学で日本語を履修する場合は外国語としての日本語の授業に入ることになる。

 本研究は、家庭言語を英語とするカナダ、オンタリオ州生まれの日系3世以降で自らの意志で大学の日本語の授業を履修した学生を対象に、彼らの日本語学習開始の動機や学びの場を持つ意味を明らかにすることを目的とする。彼らはどのような思いで日本語を履修することに決めたのか、どのような言語環境を持っているのか、日本語を学んだことにより自分自身や家族にどのような変化があったのかを明らかにする。「カナダで日本ルーツの子どもが日本語(母語)を育てる言語モデル」(三井・青木、2022)を枠組みに、アンケート、半構造化インタビュー、更に言語文化実践の思い出やエピソードに関連する写真を加え、複数の視点から探る。彼らが育ったカナダ社会は多文化主義法を持ち、州の公的資金で継承語教育も行われているが(カミンズ・ダネシ、1990)、彼らの祖父母の世代は幼少期に太平洋戦争勃発により敵性外国人として強制収容所に入れられ、解放後も言語文化継承の機会を奪われ、断絶があった。その世代を家族に持つ彼らは社会的、地域的、そして家庭内の環境をどう捉えていたか、またなぜ大学生になって日本語を学びに来たのか。ケーススタディではあるが、それを紐解くことでカナダにおける多様な継承語学習者の理解を深めたい。

S5-2.藤本恭子・金山泰子(国際基督教大学) : 多言語環境で育った大学生の読解と日本語に対する意識に関する考察 ―読解プロセスの観察とインタビュー調査から探る課題―

Kyoko Fujimoto, Yasuko Kanayama (International Christian University)
Exploring Reading Comprehension and Attitudes towards Japanese among University Students with Multilingual Backgrounds: An Observational and Interview-based Study

 近年の国際化傾向に伴い、個々の言語背景、言語能力、各自が抱える言語の問題は多様化しており、日本語母語話者、継承日本語者、第二言語学習者の定義、区別化も曖昧になりつつある。こうした状況を背景に、多言語環境で育った小・中・高校生を対象とした調査研究や支援は確実に進んでいる。一方、そのような大学生を対象とした調査研究は少なく、彼らがどのような課題・問題点を抱えているのかは明らかとなっていない。多言語環境で育った大学生の実態や彼らを対象とした日本語教育の研究を進めることは喫緊の課題である。本発表は、言語・生育環境の背景が異なる3名の大学生を対象に実施した読解プロセスの調査とインタビューの結果を報告すると共に、多言語環境で育った大学生を対象とした日本語教育における課題を考察する。
読解プロセスの調査では、テキストを音読しながら考えたことを発話する「発話思考法」を用いて理解度と困難点を観察した。さらにインタビューでは、①言語背景・生育環境(地域・学校・家庭)、②日本語に対する意識(自身の日本語に対する評価・母語意識・将来のビジョン等)、③大学の日本語教育に対する意見、「読む」ということに対する考え、について質問した。
限られたデータ数のため、被験者の読解と彼らの背景や意識の間に明確な相関関係があるとは断定できないものの、被験者らはそれぞれ日本語に対して独自の背景や思いを持っていることがわかった。こうした多様な言語背景を持つ大学生の経験や意識を、読解を含めた大学レベルにおける日本語教育にどのように反映すべきか、本調査の結果をもとに再考し、今後の日本語教育の現場へと還元する足掛かりとしたい。

S5-3.Tsugumi (Mimi) Okabe (University at Buffalo, SUNY), Mitsuaki Shimojo (University at Buffalo, SUNY), Sachi Kikuchi (Japanese for Nikkei Inc.) : Perceptions on Teaching and Learning “Japanese” as a “Heritage” Language: The Construction of a Virtual Nikkei Space

岡部麗魅・下條光明(バッファロー大学, SUNY),菊池幸(ジャパニーズフォア日系)  
継承日本語の指導と学習における認識―バーチャル日系空間の構築― 

 In teaching Japanese as a “heritage” language, our students have emphasized the importance of nurturing a space that fosters a sense of community in navigating their linguistic and cultural identity, which we have defined as a Nikkei space. Elsewhere we have argued that it is within this space where Nikkei articulations of the self emerge, allowing learners/teachers to claim agency to their heritage language and culture in personally meaningful ways. This push towards a pedagogical approach that focuses on developing a communal virtual space for heritage language speakers will be the focus of our presentation. Situating our study in relation to emerging scholarly discussions on “virtual third space,” (Shimojo et al., 2022; Markiewicz 2019; Kramsch 2009), this presentation builds on ongoing research that explores properties of L1-L2 communication in virtual settings, but with a focus on both student/teacher perceptions of learning and teaching the Japanese language outside of Japan, including Japanese as a “heritage” language in particular. In relation to the conference theme, our presentation will address the following questions:
– How do “heritage” language students and teachers perceive their interactions and experiences in their learning and teaching? And are the perceptions different between them? 
– What do the experiences of “heritage” language students/teachers tell us about how learners/practitioners of the Japanese language can begin to dismantle and unlearn practices to better support learners/teachers in an increasingly diverse society?  

In taking a participatory action research approach, our presentation draws on our program testimonials as a basis to argue that Nikkei spaces do exist and are important to the teaching and learning of the Japanese language in Japanese Canadian and Japanese American contexts. However, we also argue that different perceptions (i.e., regarding language competence, connection to culture and identity) exist between teachers and students. Our findings lend to emerging scholarly interest in understanding the various constructions of spaces that emerge from various language contact situations including those involving “Japanese as a lingua franca” (Takei 2023). 

**【2日目 9:00-10:25 Session 6】【場所:Mount Royal II】**

S6-1.吉村由紀(マサチューセッツ大学アマースト校) : ChatGPTの日本語教育における活用可能性と懸念:生成文章の類似点・相違点の分析より

Yuki Yoshimura (University of Massachusetts Amherst)
Application and Concerns of ChatGPT in Japanese Language Education: An Analysis of Similarities and Differences in General Texts

 本研究は、日本語教育分野においてChatGPTをどのように活用できるか、およびその活用に伴う懸念点について調査するものである。ChatGPTは近年、多岐にわたる分野で注目を浴び、2022年11月に一般公開されて以降、多数の教育機関や教育者がChatGPTを活用する一方、学習者によるChatGPTの不正使用に関する懸念も存在している。本研究では、初級と上級の2つのレベルにおいて、ChatGPTが生成した文章と学習者が作成した文章を比較分析することで、ChatGPTの不正使用を検知する容易さと難しさについて分析する。初級レベルでは、使用すべき文法や構成を指示した作文を対象にし、ChatGPTが生成した文章と学習者が作成した文章を比較した。その結果、ChatGPTが使用した語彙や文法には未習のものが多く、学習者が作成した文章との区別が容易であることが判明した。一方、上級レベルでは、複数の社会問題や自己分析との関係についてのレポートを対象に比較分析を行った。その結果、ChatGPTがより適切なまとめ方をしている部分がある上に、使用された文法や語彙が学習者と類似しているため、学習者が作成した文章との区別がより難しいことが判明した。発表においては、調査結果の詳細に加え、ChatGPTがどの程度細かい指示に応じることができるのか、また教師側がChatGPTとどのように共存していけるのか(Trust, Whalen, Mouza, 2023)、さらに剽窃の可能性をチェックできるTurnitinの有効性について、多角的に考察する。

S6-2.青木裕美(アルバータ大学) : ChatGPTと日本語学習:学習者との協働プロジェクトの試み

Hiromi Aoki (University of Alberta)
ChatGPT and Japanese Language Learning: A Trial of a Collaborative Project with Learners

2022年11月に公開された対話型人工知能(AI)ChatGPTは、瞬く間に世界に普及し、この革新的ツールが及ぼす教育への影響について、現場の教師たちの間で様々な議論が始まった。これまで教室外で行ってきた作文の課題などを教室内で行わせることによってChatGPTの使用を防ごうとする動きがある一方で、積極的にChatGPTを学習に取り入れる方法を模索する教師たちも目立ってきた。しかし、このようにChatGPTを肯定的に捉える動きの中にも、まだそこに学習者の視点を取り入れたものはまだあまり見かけない。そこで筆者は、ChatGPTと日本語学習について学習者と議論し、ChatGPTの使用方法についてアイデアを出し合うプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトの目的は、不正行為に結びつかない、日本語学習のためのChatGPTの使用方法を学習者と協働で模索し、学習者の視点を取り入れた活動や課題を提案することである。通常教師が単独で準備してきた学習活動や課題などを学習者と協働して考えることは、学習者が自身の学習の理由や目的について考え、そのための学習方法を自ら選択するという機会にもなり、学習者オートノミーを身につけさせる一助にもなることが期待される。今発表では、進行中の本プロジェクトの中間報告をする。

S6-3.矢吹ソウ典子(ヨーク大学) : グローバルネットワークを利用した大学日本語ライティングコースの開発実践

Noriko Yabuki-Soh (York University)
Using global networking in the development of a university Japanese writing course

 本研究は、日本語のライティングコースの開発実践に基づき、オンライン通信の利点を活かした日本語コースの有効性を考察するものである。グローバル化が進む現代社会において、當作(2017)は日本語教育の目標は教科内容を教えるだけに留まらず、21世紀を生きることができる学習者を育てることであるべきだと主張している。当大学の日本語科では、学習者がオンラインで学外の大学生と日本語でつながることで自律的に学びを深めながら書きの能力を伸ばすことを目的とし、中級レベルを対象に「バディ・プログラム」を盛り込んだコースを立ち上げた。大学の国際センターと提携校の協力を得て同プログラムへの参加者を募り、両校から16名ずつの学生数で実施した。授業の形態は対面と非同期型を組み合わせ、日本語の書きに関する講義や練習に加え、日本の新聞コラムの投稿文を基に学習者が様々なトピックの中から選択して意見文を書き相手校の学生からの質問に回答する課題や、同校の学生に文章でインタビューを行ないその結果に基づいて報告文を書く課題などを設けた。個々の書きの上達過程がわかるように、主にポートフォリオの提出とそれに基づいた評価法を用いた。その結果学習者は、日本に住む日本人学生に加え日本滞在中のネイティブレベルの留学生や海外留学中の日本人学生とも通信することで、講義や練習で学んだ文体や文型などの知識を活かしつつ、多岐に渡るトピックについて意見を交換し、多様な発見をしながら書きのスキルを身につけていくことになった。本発表ではさらに、アンケート調査に基づいた参加者からの主な感想に加え、同様のコースを開発実践する際の留意点についても報告する。

**【2日目 15:10-16:35 Session 7】【場所:Mount Royal I】**

S7-1.朴智淑(トロント大学) : 「標準」や「正しさ」を超えた日本語教育とは

Jisuk Park (University of Toronto)
Challenging the Notion of “Standard” and “Accuracy” in Japanese Language Education

 昨今の言語教育ではネイティブスピーカー至上主義によるNS・NNS等の階層化やことばの標準化による同化の強制などが問題視されている(Doerr2022)。日本語教育においても例外ではなく、北米の日本語教師を対象にしたアンケート結果では「ネイティブスピーカーのように話す」ことや「標準語を基準にした正しさ」をどれぐらい強調すべきかについては意見が大きく分かれることがわかっている(Mori et al.2020)。日本語教育で主流となっていた教授法の焦点も「正しく使う」から「適切なコミュニケーション」へと変わってきた。しかしこれらの教授法やアプローチにおいてもネイティブスピーカーが「正しさ」やその判断の基準とされていることに変わりはなく、NS・NNS等の階層化につながりかねない(Doerr2009)。本発表では、必ずしもネイティブスピーカーを理想とせず、「正しさ」や「適切なコミュニケーション」に代わって「人・情報・社会とつながる」ことを目的としたSocial Networking Approach(當作、中野2012)をもとに考案した初級からでも可能な教室活動を提案する。またこうした活動を取り入れてはいても、特に初級の日本語の評価においてはネイティブスピーカーや標準語を基準にした正しさが重視されることも多いという問題を踏まえ1)日本語教育で使用されるテスト等の評価が「正しさ」に重きを置かれていること、2)「正しくない」とされる回答が減点法で評価されることの問題点を学期始めやプロジェクト後のアンケート等をもとに考察し、代替案としてどんな評価方法が可能かを考察し具体案を提示する。

S7-2.鈴木貴美子(ハバフォード大学) : 江戸時代は「清潔」な文化?―「脱標準化・脱ユニット思考」の教室活動の試みー

Kimiko Suzuki (Haverford College)
Is Edo Culture “Seiketsu (Pure/Unpolluted)”?: Integrating “Beyond Standardization and Beyong Unit Thinking” into Classroom Activities

 日本語の初中級クラスは教科書中心であることが多いが、教科書の情報は中立で客観的なものではなく(Bori 2018)、恣意的に選択された知識や情報が「標準」として受け入れられる傾向が強い(熊谷 2014)。その際に日本語・日本文化は同質で固定化された境界線があるものだとみなされ、その内部にある多様性は蔑ろにされる。Doerr(2022)はこういった見方を「ユニット思考」と呼び批判している。教科書ではユニット思考が強調されがちだが、同じ教科書を反面教材として取り入れ、「脱ユニット思考」を試みることで、学習者に日本語・日本文化の標準化に対する気づきを促し、批判的に考える力を養うことができるのではないかと考える。
 そこで本発表では、教科書『上級へのとびら』を使い「脱標準化・脱ユニット思考」を試みる3年生の教室活動の実践報告をする。実践では第11課の「日本の歴史」で江戸文化が「清潔」という言葉を使って描写されている点に焦点をあてた。補助資料として葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」を紹介し、作品の中で使われている藍色(ベロ藍)と西洋の関わりについての理解を促すことで、一般的にはあまり知られていない江戸文化の浮世絵に潜む西洋の影響を読み解いた。その上で、教科書ではどのように江戸文化に対するイメージの強調が行われているか、またどんな意図で誰が強調したいと考えるのかについて話し合った。発表では教室活動の内容や学習者から出た意見を見た上で、「脱標準化・脱ユニット思考」の活動を中級クラスで取り入れる際の留意点を考察する。また日本語教師の専門性が問われると思うが、それについてにも触れる。

S7-3.高梨信乃(関西大学) : 中国の高校で教える中国人日本語教師が必要とするもの

Shino Takanashi (Kansai University)
Needs for Chinese speakers who are teaching Japanese language in high schools in China

 本研究は、日本語非母語話者の特性をふまえた日本語教師養成プログラムの構築を目指すものである。
2021年度の日本語教育状況調査において、中国は学習者数、教師数、機関数の全てが増加し、いずれも世界第1位であった。特に中等教育における学習者が2018年の約9万人から約33万人へと大幅に増加しており、その主な要因は大学入学試験の外国語科目として日本語を選択する学生が増加したことだとされている(国際交流基金2023)。この傾向は今後も継続するとみられており、日本語教育を学ぶ中国人の間で、将来、中国の高校で教えることを目指す者が増えている。

 日本で日本語教育を学ぶ非母語話者のうち圧倒的多数を占めるのが中国人であることからすれば、中国の中等教育における日本語教育の需要の高まりは無視できない。一方、中等教育には、対象が年若い高校生であることや大学受験を目的とした学習であることなど特有の状況があるが、この種の教育現場で教える教師がどのような困難にぶつかり、何を必要としているかについて考察する研究はまだほとんどなされていない。
 そこで、本研究では中国の高校で教える中国人日本語教師が必要とするものを明らかにすることを目的とする。研究方法としては、日本の大学院を修了し、中国の高校で教えている3名の中国人日本語教師を対象に半構造化インタビューを行い、音声データを文字化した資料をM-GTAを用いて分析する。
 本研究の結果から非母語話者日本語教師養成プログラムの構築にむけた示唆が得られることが期待される。
※引用文献:国際交流基金(2023)『海外の日本語教育の現状 2021年度海外日本語教育機関調査より』

**【2日目 15:10-16:35 Session 8】【場所:Mount Royal II】**

S8-1.吉澤明子(マウントアリソン大学) : 日本とカナダの大学間におけるCOILの実践報告―学びを生み出す為の試みー  

Akiko Yoshizawa (Mount Allison University)
A Case Study Report on Collaborative Online International Learning (COIL) Practice Between Japanese and Canadian Universities: Initiatives to Foster Student Learning

 Collaborative Online International Learning(COIL)は、海外大学との交流をオンラインで行う方法として知られている。本発表では、学習目標と目標言語レベルが異なる日本とカナダの大学間におけるCOILのパイロットスタディの実践を報告し、カナダ側の大学の視点から考察する。実践は2回のZoom同期交流と、複数回のFrip動画による非同期交流の形式で2022年秋学期に行われた。対象者はカナダの大学に在籍する初級日本語学習者6名、日本の大学に在籍する日本語を母語とする中上級英語学習者11名であった。各大学の学習目標は、カナダ側が初級後半の日本語習得、日本側が異文化間コミュニケーションの実践と理解であった。実践では双方の学生に学びを生み出す試みとして、コース目標と言語レベルを考慮した2つのトピックを設定した。「日本特有の表現や日本人のステレオタイプ(日本側)」「自分の町の有名な場所紹介(カナダ側)」各大学の学生は指定のトピックに関するビデオを自分の目標言語で作成し、相手大学はそれに対するコメントビデオを作成し非同期で交流した。トピックの難易度によりビデオ内のどの箇所にどの言語を用いるかを教師側が指定した。また、コメントビデオに必ず相手への言語フィードバックを盛り込むことも指示した。実践を通し、カナダ側の学生には母語話者による日本語のインプットとフィードバックに加え、従来のカリキュラムに含まれなかった語学能力面以外の理解を深める機会も提供された。来期への課題として、より活発な交流を生む方法の模索、各大学のCOILの比重の調整等が挙げられる。

S8-2.シャープ昭子(カルガリー大学) : バーチャルエクスチェンジプログラムの実践例と今後の可能性

Akiko Sharp (University of Calgary)
Practical Examples for Virtual Exchange Program and Future Possibilities

 新型コロナウイルスの拡大に伴い、対面での接触が大きく制限された。閉ざされた世界での孤独との戦いから始まったオンラインの授業も時を経て新たな学びと出会いをうみ、語学学習においてはこれまでになかった新たな可能性をもたらした。
 本発表では、以下のバーチャルエクスチェンジプログラム(V Eプログラム)、C O I Lの記録をベースに議論を進める予定である。
• 2021年春学期 第一回V Eプログラム
• 2021年秋学期の3年目の日本語クラスにおける日本の大学とのC O I Lプロジェクト
• 2022年春学期 第二回V Eプログラム   
本発表のバーチャルエクスチェンジは英語圏の日本語学習者と日本の英語学習者の組み合わせで実施した。参加者は経験学習(Experiential Learning)をベースに双方の学習者がお互いの学習言語(日英)を使いながら協働作業を進め、その体験を記録し、振り返りを通じて改善点を自ら見出していった。さらに、協働作業による成果物を記録として残していくことをサイクルにしてプログラムはデザインされている。
 留学が可能になった今、バーチャルエクスチェンジを語る人は少なくなってしまった印象がある。しかし、バーチャルエクスチェンジは、諸般の事情で留学が叶わない学生に海外との接触をもたらし、それは、彼らにも留学経験者が現地で体験する、言葉が通じたという喜び、言いたいことが言葉にならない悔しさを体験することを可能にしてくれる。このような機会は今後も継続していくべきであろう。
 年次大会で参加者の皆様と、活発な議論ができることを楽しみにしている。

S8-3.松永由美子・ハック真理子(コロラド大学ボルダー校) : オンライン会話練習プログラム“TalkAbroad”を利用しての異文化学習プロジェクト

Yumiko Matsunaga, Mariko Hacke (University of Colorado Boulder)
Intercultural Projects in Japanese Using the Online Video Chat Program “TalkAbroad”

 コロナ禍以前から、テレコラボレーションやヴァーチャル・エクスチェンジを導入した外国語学習の研究がなされて来たが、コロナ禍を経て、その必要性・存在意義は一層明確になって来たと思われる。様々なプラットフォームの中で、TalkAbroad (https://talkabroad.com/) は、「学習者の会話練習の相手をするためのトレーニングを受けた母語話者と会話でき、その会話内容を録音、教師がモニターできる」と謳っている点において、他のオンライン会話練習プログラムとの差別化を図っており、教材としての利便性として利用価値が高く、アメリカの大学では主にヨーロッパ言語の正規コースで取り入れられている。本発表では、TalkAbroadを、日本語上級コースの異文化学習プロジェクトのツールとして利用した結果について、過去5年の実践状況と、直近の学期に行ったプロジェクトで学習者に行ったアンケート調査及び実際の会話データの分析を基に、TalkAbroadを日本語コースに組み込む利点と問題点を考察する。まず、過去5年の実施状況から、この間改善してきた点を振り返る。その次に、最近のアンケート調査から、学習者のTalkAbroad及び与えられた課題に対する学習者個々の意識・姿勢の違いを、2019年に行ったアンケートと比較しながら分析する。加えて、会話パートナーへの学習者の期待と実際のミーティングにおけるすれ違いの例を会話データから紹介する。最後に、TalkAbroadを含め、オンラインの会話練習プログラムをカリキュラムの一部として有効に取り入れるための提案をいくつか行いたい。

1日目 ポスター発表 / Affiches / Poster Presentations 16:45-17:45【Grand Salon】

[P-1] Yoriko Aizu (University of Ottawa, Carleton University) : Word Order and the Prosody of Conjunctive Coordination L1 Influence: The Case of Japanese-English Bilinguals

相津頼子(オタワ大学・カールトン大学)      
第一言語が語順と等位接続詞の韻律の関係に与える影響 : 日英バイリンガルのケース

The coordination of two elements with a morpho-phonologically realized coordinator is typologically attested in many languages (Stassen, 2000; Haspelmath, 2007). Languages, for instance, essentially have the choice to reduce to a single medial coordinator. (i.e., the prepositive cases can reduce to A &-B, the postpositive cases can reduce to A-& B). Therefore, there are two prosodic possibilities: Proclisis as in John and-Peter and Enclisis as in John-and Peter. These prosodic options are related to word order typology according to another relevant rule. The connection between word order and the prosody of the conjunctive coordinator is illustrated in Figure 1 (https://docs.google.com/document/d/1HA1bH4gl9KivL6dM7p90LzY–6MLNSw4Zo4yIkW7KL0/edit?usp=sharing)

If a language is VO, then it can only have proclisis (i.e., English). If a language is OV, it may have enclisis (i.e., Japanese) or it may not (i.e., Basque). The OV languages that have enclisis (Japanese) and the VO languages that have proclisis (English) can be referred as convergent, and the VO languages that have proclisis (Basque) as divergent. 

In this project, we focus on the convergent languages, namely Japanese and English. By using experimental data from bilingual speakers of Japanese and English, we address this specific question: how strong is the relationship between the prosody of conjunctive coordination and word order in the mind of the bilingual speakers? 

The participants are Japanese-English bilinguals. They are asked to listen to sentences that contain items with either enclisis or proclisis prosody as in (1) and (2) and judge the naturalness of the sentences, using a 1-6 Likert scale. 

(1) Japanese
a. Emily-wa eigo-to nihongo-to furandu-go o hanashimasu. (Enclisis)
b. *Emily-wa eigo to-nihongo to-furansugo o hanashimasu. (Proclisis)

(2) English
a. *Emily speaks English-and Japanese-and French. (Enclisis)
a. Emily speaks English and-Japanese and-French. (Proclisis)

The comparison of the judgements provided by the bilinguals for their L1 and for their L2, allows us to determine whether there is interlinguistic influence (from the L1 to the L2) with respect to this very well-established prosodical difference.

[P-2] 赤井佐和子(ヒューロン大学) : 合理的配慮からアクセシビリティへ:多様化する社会においての教育支援と工夫

Sawako Akai (Huron University at Western) Shifting from academic accommodation to accessibility: Educational support and efforts in a diverse society

 本発表は,オンタリオ州高等教育機関における合理的配慮をめぐる対応と教育支援について報告する。カナダでは1960年のカナダ権利章典で人権が保証され、1977年のカナダ人権法と1982年のカナダ憲章で、差別から守る法律が定められた。各州・準州政府には独自の人権規則があり、オンタリオ州人権条例では、障害の差別なく、皆平等に教育を受けられる権利が保障され、合理的配慮は学生の権利であり、教育機関の義務であることが定められている。オンタリオ州では、1980年代にアクセシビリティへのファンディングが導入され、各大学で障害に関するポリシーが人権条例に則って作られた。しかし、現在、配慮というシステムで補えない現実を踏まえて、学内での教育支援の改善が急務の課題となっている。そこで、各大学では、みんながアクセスできる授業をデザインすることを奨励している。本発表では、各大学が配慮とアクセシビリティを取り組むことによってインクルージョン(包括性)を目指している中、どのような考え方に基づき教育的戦略を提案しているか提示することを目的とする。具体的には、オンタリオ州にある大学22校において合理的配慮がどのように施行されているか公式サイトでの公開情報を検証し、そこにどのような共通点、傾向があるか抽出する。そして、「対応型」配慮、「予測型」配慮において、どのような教育支援が行われているか、また、それぞれの教員向け、および学生向けの取り組みについて考察する。本発表を通して、多様化する社会において教育場面での支援と工夫の実態について様々な角度から考えたい。

[P-3] 橋本一雄(中村学園大学短期大学部) : 外国人留学生に対するLMSを活用した法学系授業の日本語学習効果に関する検証

Kazuo Hashimoto (Nakamura Gakuen University Junior College)
Verification of Japanese language learning effect of law class using LMS for foreign students

 大学の社会科学系授業では専門知識としてその学問の領域で用いられている専門用語を修得させることも重要な課題である。特に、法学系の授業において、学生は、法令の条文や官公庁で用いられている行政用語をも理解する必要があり、これまで、日本語を母語としない外国人留学生にとって、法学系科目は、他の社会科学系科目に比べても難易度の高い科目として捉えられる傾向にあった。一方で、2020年以降、感染症対策として導入が進んだWEB授業を構築・運用する過程で、繰り返し学習することのできるオンデマンド型のWEB授業と授業者と学習者が課題提出と添削を行うことのできるLMS(Learning Management System:学習管理システム)を授業に組み入れることで、外国人留学生等がより効果的に学習成果をあげる授業方法の可能性が示唆された。この学習効果は、特に日本語を母語としない外国人留学生にとって顕著に示されている。また、この授業方法は、大学等に限らず、幼稚園や小学校、中学校や高校などの社会系の科目において活用することで、例えば、日本語教育の支援が必要な外国にルーツを持つ子ども等が社会系科目の理解を促すことにも応用可能なものと思われる。そこで、当発表では、WEB授業とLMSの導入前と導入後でどのように法学の授業の学習成果の違いがあったのか、特に日本語を母語とする日本人学生とそうではない外国人留学生等との学習効果の違いに焦点をあて報告する。当発表は日本語教育を専門としない社会科学系教員の取り組みに関する発表ではあるが、他分野からの日本語教育に関する実践報告を兼ねた発表としたい。

[P-4] 猪狩美保・古市由美子(東京大学大学院工学系研究科)  : 反転授業における学習者の学びと課題―「専門読解」コースの実践を通してー

Miho Igari, Yumiko Furuichi (The University of Tokyo, School of Engineering)
Learners’ Learning and Challenges in Flipped Classroom: Report on the Practice of “Technical Reading” Course

 本発表は、工学系大学院生を対象とした日本語中級読解コースで実施した反転授業の実践報告である。読解コースの反転授業は多忙な学習者の効率的、自律的な読解学習の促進、工学系に即した専門性の高い読解(専門読解)を目指して実施された。学習者は事前学習として、当大学で行われている研究内容に関するオリジナルテキストの動画とその研究者へのインタビュー動画の2本を視聴し、課題クイズを行う。授業は動画の視聴と課題を実施した前提で、ディスカッション、文法説明、読解を中心に行う。この読解コースの反転授業の実施によって、①学習者はどのような力が育成されたのか。②反転授業の課題は何かを明らかにした。
 2020年4月~2023 年1月まで6学期分の授業後のアンケートを分析した結果、概ね反転授業について、肯定的な結果が得られた。そして、研究室で使用する専門的な知識、語彙力、読解力や読むスキル、文法力が養われたことが分かった。また、専門語彙を学ぶことは、読解力の向上だけでなく、研究生活や日常会話にも役立っていた。一方、反転授業の課題として、プラットフォームの簡便性、事前学習において専門性が異なる学習者やレベル差のある学習者への配慮が必要なことが明らかになった。
 専門読解コースを反転授業として実施することは、事前学習によって外発的な動機付けが高まるだけでなく、研究内容と読解教材が関連することで内発的な動機付けに結びつき、将来の研究や読む力の向上につながる。一方、読解コースにおける事前課題は、学習者の読む力を確認しながら教材の内容を調整すること、またログインの簡便性が反転授業の成功にも影響を与える要因になる。

[P-5] 池田朋子(マギル大学)・礒部靖世(公立千歳科学技術大学) : 「セルフスタディー・プロジェクト」を通して学習者は何を学び取ったか

Tomoko Ikeda (McGill University), Yasuyo Isobe (Chitose Institute of Science and Technology)
What did Students Learn Through the “Self-Study Project”?

 本発表は、自律的な学習を目指した「セルフスタディー・プロジェクト」の実践を通して、学習者が何を獲得したかを報告するものである。セルフスタディー・プロジェクトとは、学習者が自ら学習内容を選択し、計画を立て、自己評価を行うプロジェクトであり、発表者らの担当するカナダの日本語クラスでは2019年、日本の英語クラスでは2020年からコースワークの一部として取り入れている。これまでの研究では、このプロジェクトが学習者に上達を実感させ、外国語学習へのモチベーションを向上させることに加え、周りの学習者から受ける刺激もモチベーションにつながっていることが示された。本調査では、学期終了後のアンケートに記述された、セルフスタディー・プロジェクトの長所・短所と、今後このプロジェクトを行う後輩へのメッセージに焦点を当て、分析を試みた。その結果、学習者らは「コンスタントな学習」、「時間管理」、「自分に合った学習方法の選択」など、外国語能力の向上に直結するものではなく、メタ認知ストラテジーに関する点を、セルフスタディーを行う上での重要なポイントとして指摘していることがわかった。セルフスタディー・プロジェクトは、学習ストラテジーを明示的に指導するものではないが、本実践のように自由度の高いプロジェクトでは、学習者が学習内容の選択を任されることによって、学習の成果に対して責任を持つようになる。そのことが、学習者にメタ認知ストラテジーを使用することの重要性を感じ取らせたのではないかと考えられる。本発表では、この気づきが、外国語学習に限らず、コース終了後に続く自律学習にも共通する重視すべき点であると捉え、考察を行う。

[P-6] 石川比奈子(カルガリー大学) : 自律学習プロジェクト実践報告『Genius Hour Project 2023』― 中級学習者を対象にー

Hinako Ishikawa (University of Calgary)
The Autonomous Learning Project ‘Genius Hour Project 2023’ for Intermediate Japanese Language Learners

大学で日本語を勉強した学習者の「卒業後の日本語学習の継続」はどうなっているだろうか。日本語関係の仕事につく者以外は、卒業と同時に日本語学習から離れてしまい、継続したくてもどのように学習すればいいのかわからない者が多いのではないか。
 2020年から開始した自律学習の「Genius Hour Project」。別名20%タイムとも呼ばれ、授業時間の20%の時間を使って学習者に自分の好きなプロジェクトに取り組んでもらう活動である。今回、紹介するGenius Hour Projectは、A.J. Juliani 氏のやり方を参考に、これまでの経験を踏まえて、大学生向けにさらに改善したものである。対象は、中級レベル(B1)で、今回が卒業のため最後の日本語のクラスである者が多かった。そのような学習者に、卒業後も自律して行うことができるプロジェクトを体験してもらうことを目的とした。
プロジェクトは、2023年の1月から、計画→講師との面談→実行→クラスでの共有を繰り返し、9週間  実施。学期末に、TEDトークでプロジェクトを紹介、クラスメートから口頭質問も行い、プロジェクトをクラスでシェアした。
 報告では、主に、初級学習者を対象にした時との違い、改善点、アンケート、Bookcreatorで作成したプロジェクトの作品などを紹介する。すでに学習経験を積んでいる中級学習の中には、「3年間で学んだ文法事項を思い出し、翻訳アプリの助けを借りずに翻訳することに挑戦することができた」とプロジェクトに満足する声も聞けた。大学卒業後も自律的、継続的に日本語学習ができるヒントになるようなプロジェクトを報告したい。

[P-7] 石岡優力(専修大学) : SNSが貢献する若年層の方言使用 ―方言使用の多様性の実態と言語習得の関係―

Yuki Ishioka (Senshu University)
Dialect Use among Young Adults Contributed by SNS -The relationship between the diversity of dialect use and language acquisition-

 近年では、SNSの普及により方言による会話を文字化して情報のやり取りに利用している例がある。本研究では、青森県弘前市等で使用されている日本語津軽方言や、香港、マカオ等の地域で使用されている中国語粤方言(広東語)の例に着目し、SNSの伝達で文字化されている方言が、若年層の方言使用の定着促進に貢献しているのではないかということを明らかにすることを試みた。一方で、方言の文字化があまり見られない例として、沖縄県の琉球諸方言や、鹿児島県の奄美群島の諸方言のうち、徳之島方言に着目し、その実態も調査した。津軽方言や広東語は若い世代などでも、地域を離れて生活していてもかなり使用されているという実態があるが、徳之島では方言話者が年々減少しており、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の発表する消滅の危機に瀕している方言に指定されている。以上のことから、口頭での会話だけでなく、会話を文字として打ち込むという実態がある方言は、居住する地域に縛られず使用する機会を確保することができており、それが方言使用と定着を促進しているのではないかという結果に結びついているのではないかと考えるに至った。SNSは基本的に会話文であるため、普段会話で使っていない方言は、SNSにおける方言の文字化が進んでいないということもわかった。さらに、この結果から、外国語教育でも、耳から入る音声を口頭で表現するということと、文字でアウトプットして、それを目で追うということの並行的使用の頻度を上げれば、その言語を使用する地理的環境にいなくとも、学習者の進歩が見られるのではないかという研究に続けて行く可能性があることも、本研究で明らかにする。

[P-8] 亀山泰(専修大学) : 多様な背景をもつ留学生の教育 ―スポーツ留学生の場合―

Tai Kameyama (Senshu University)
Education of International Students with Diverse Backgrounds -The Case of International Sports Students

 本研究では、大学に入学した留学生のうち、スポーツ推薦枠として入学した体育会選手の日本語能力とその実態を調査し、留学生と受け入れ側のそれぞれのニーズを明らかにする。
 学術目的の留学生は、入学時に一定以上の日本語能力が求められ、入学後も留学生対象の日本語の授業が設置されている。しかし、スポーツ推薦枠の学生の場合、必ずしも日本語能力や学力が問われるとは限らず、大学で彼らのための日本語の授業が設置されていない場合も多い。高校から来日する学生も、大学で初めて来日する学生もいて、日本語力も学力も、それぞれの学生の背景は様々である。そのため、入学後に日本語でのコミュニケーションに困る、大学の授業についていけないなど、問題が起きている。日本に留学している以上、生活においても学業においても、日本語力は必須である。さらに、卒業後に全員がプロの選手になれるというわけでもなく、企業に就職する場合もある。就職する場合、日本語力や、大学の学部での学びが必要である。
 しかし、スポーツ留学生を対象とした日本語教育の研究はまだ始まったばかりであり、先行研究、実践報告が少なく、多様な背景を持つスポーツ留学生の実態も、一部しか把握ができていない。また、これまでにいくつかある研究は、スポーツ留学生のニーズを調査しているのみで、所属している部のチームメイトや顧問など、周りの日本人に調査をしていない。本人だけでは気が付くことができないニーズも、調査が必要である。
 そこで本研究では、大学に在学中のスポーツ留学生と、周りの日本人にインタビュー調査を行い、スポーツ留学生が抱えている問題と、日本語教師に求められる支援を明らかにする。

[P-9] 川上尚恵・朴秀娟(神戸大学) : 非母語話者日本語教師の利点を日本語教師養成プログラムにどう活かすか

Naoe Kawakami, Sooyun Park (Kobe University)
How we leverage the strengths of non-native Japanese language teachers to a training program for teachers of Japanese

 非母語話者日本語教師(以下、NNT)の多くは海外で養成され日本語を教えているが、近年日本国内でも日本語教師養成プログラム(以下、プログラム)を受講する日本語非母語話者の存在が指摘されている。しかし、国内のプログラム設計の指針である文化庁の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」では、NNTの存在は明示的ではなく、日本語母語話者を前提としたプログラムとなっている。国内の多文化共生の観点からもNNTの存在はより重要になってくると考えられ、NNTの資質を活かしたプログラムを構築することが必要だと考える。
 本発表ではNNTの資質の中で利点に着目し、NNTの利点について考察を加え、それらをプログラムにどう活かすことができるか提案する。髙橋(2019)では、教授環境によってNNTの利点の捉え方が異なることが示されているが、母語・文化を共有していない文脈は日本国内の一例のみであり、結果が一般化できるかは疑問である。また、教授環境によって利点の捉え方は異なるとしても、利点がどのような認識等から生じているのかを考察することで、教授環境によらない共通項を見い出すことはできよう。本発表では、母語・文化の共有の有無により3つの異なる環境で教えるNNTに対するインタビューをデータとして用い、教授環境によって利点の捉え方がどう異なり、その共通項は何か考察をする。そして、その共通項をもとにし、日本国内のプログラム構築への提案をしていく。
 髙橋雅子(2019)「非母語話者言語教師の認知に関する研究の概観−学習者との母語・文化背景の共有の有無に注目して−」『昭和女子大学大学院言語教育・コミュニケーション研究』13, pp.1-17.

[P-10] 川光真二(関西外国語大学) : 自己成長できる教員を目指して:読み書きクラスにおけるライティング指導実践の振り返り

Shinji Kawamitsu (Kansai Gaidai University)
Toward a self-growing teacher: Reflections on a practice of teaching writing in a reading and writing classroom

 本発表は、発表者が行ったライティング指導実践の報告および振り返りを行い、自身の自己成長に資する課題を明らかにすることを目的としている。
 これまで発表者は、初級レベルのライティングにおいて、教員が学習者の文法習得を評価する場となっていることを問題視し、日本国内外の日本語クラスにて、ライティング指導実践を行ったことがあった。
 2020年度から日本の大学で読み書きクラスを担当することになったこと、および2021年度から日本語教員養成課程履修者のためのライティング指導ワークショップの開発に取り組み始めたことをきっかけとし、改めて自身のクラスでライティング指導実践を行うことにした。この実践研究の目指すところは二つあり、一つは発表者自身の読み書きクラスの質の向上、もう一つはこの実践から得られる実証的な知見をワークショップ開発に付加することである。
 実践は2023年春学期に行った。ライティングを「意味を作り出す行動」と捉えるジャンルアプローチの観点を取り入れ、学生が読み書きを動的に行えるような学習環境を整えた。具体的には、読みの活動では日本の物語を読み、物語の目的や評価表現(誰のどのような態度がどのように表現されているか、など)を分析した。書く活動では、学生自身が物語内で達成したい目的を設定し、その目的を達成するような評価表現を組み込むような活動を行った。
 実践の振り返りから、教材化の困難や評価表現に対して異なる解釈を持った学生への教員の対応などの課題が見つかった。本発表ではこれらの項目に照らして教員の自己成長について考察したい。

[P-11] 森川結花(甲南大学)・谷川依津江(岡山理科大学) : 留学期間中の教室内外での学びの経験を振り返る―留学経験者が記憶の中で「図」と「地」として認識しているもの―

Yuka Morikawa (Konan University), Itsue Tanigawa (Okayama University of Science)
How do Japanese Learners Perceive and Retain Their Experiences Inside and Outside the Classroom? −Their Perception of “Explicit Components” and “Implicit Components” in Their Memory−

 本発表では、インタビュー調査に基づく質的研究において、学習者の語りの内容を知覚心理学の「図」と「地」の概念に当てはめることで合理的に了解できることを報告する。
 発表者らは、短期交換留学プログラムにおける文化体験学習が学習者の日本語学習への動機づけにもたらす効果についての追跡調査を行うため、2022年11月から2023年1月にかけて、留学経験者4名に対して質問紙調査及びインタビュー調査を行った。4名は2015年から2020年までの間で、各々9ヶ月間のホームステイ・プログラムに参加した経験を持つ。留学終了後、数年を経て行ったインタビュー調査で留学中に彼らも参加した文化体験学習についての質問したところ、大学内で行われたワークショップ型の文化体験学習については4名のうち3名が特に記憶していなかった。対照的に4名が生き生きと語ったのは、教室外での日常生活の中でのホストファミリーや日本人学生等との交流、そして日本語授業の一環として学外で行われる研修旅行の場で、いかに苦労して日本語を使い、日本の文化を体験したかということであった。
 このインタビュー結果について、知覚心理学でいう「図」と「地」の概念を当てはめて解釈すると、彼らの記憶に「図」的に顕在化して残っているのが教室外での経験、反対に「地」として潜在しているのが教室内での学習活動ということになる。彼らは教室内での学習活動を軽視しているのではなく、そこは安心して学習に集中できる場として認識されていた。
 「地」を構成する教室内活動の一部が記憶から失われているように見えてもそれは必ずしも教育実践の失敗を意味する物ではなく、むしろそれが学習者主体の実像と考えられる。

[P-12] 向山陽子・村澤慶昭・村野節子・山辺真理子(武蔵野大学) : ビジネス場面における報告書作成能力養成のための音声教材の開発

Yoko Mukoyama, Yoshiaki Murasawa, Setsuko Murano, Mariko Yamabe (Musashino University)
The Development of Audio Teaching Materials to Foster Learners’ Report Writing Skills in Business Settings

 本研究は、ビジネス場面において打ち合わせや会議の参加者の発言を理解し、情報を重要度に応じて取捨選択した上で、口頭、または文書で的確に他者に報告できる能力を養成するための教材の開発を目指す。この教材で養成を目指す能力はアカデミック場面においても必要なものである。
 試作版として製菓会社で働く外国人社員を主人公にしたストーリーのあるタスク先行型の聴解教材を作成し、大学2年生16人を対象としてビジネス関連の日本語を学ぶクラスで教材の一部を用いて実践を行った。まず、音声を聞く前に会話の背景や最終目標(報告書の作成)などを理解させた。その後、会話全体の音声を聞きながらキーワードを書き取り、それを基に句や短文にまとめ、報告書を作成するという手順であった。授業後に学生にアンケート調査を実施した結果、次のようなことが明らかになった。1)1回聞いただけで内容はだいたい理解できた。2)音声を聞きながらキーワードをメモすることは難しい。3)キーワードを手がかりに文に書き直すのは難しい。4)カタカナ語や初めて聞く商品名の聞き取りは難しい。
 これらの結果から、真正性を重視したタスク先行型の試作版教材は指導対象の学生には難しいことが明らかになり、スモールステップで報告書を作成できる能力の養成が必要であることが示唆された。また、会話の理解には背景知識が必要であるが、試作版はその点が十分に考慮できていなかった。そのため、現在、キーワードの聞き取り、パラフレーズ練習などを取り入れ、ボトムアップで能力を養成する新たな音声教材の開発に着手している。本発表では試作版教材による実践と、改善を進めている教材について報告する。

[P-13] Naoko Nemoto (Mount Holyoke College) : COVID-19 era learners’ needs and self-reflection on their Japanese learning: a study from PBL in a non-language course at a study abroad program in Japan

根本菜穂子(マウントホリヨーク大学)
コロナ禍短期日本留学生の日本語学習のニーズと内省: PBLから考察

In the fall semester of 2022, short-term international students returned to Japan for the first time since March 2020. Many of them started their college life in the midst of the COVID-19 crisis. During the pandemic many courses, including Japanese courses, were modified to accommodate remote or hybrid learning. Moreover, it is likely that they met no students who had study abroad experience on their home campuses prior to coming to Japan. A question arises as to how well they felt they had been prepared for life in Japan. 

This work will examine PBL products created in a spring semester of 2023 English-taught course in Japan. The class consisted of 18 students from 10 different U.S. colleges and universities. In doing so, we will explore current students’ needs in language training prior to and during their study abroad. Moreover, we will analyze how this PBL helped the students reflect on their language learning experience. As argued in Travers et al. (2015), among others, self-reflection enhances effective learning. 

The PBL that we are going to examine was conducted in a so-called ‘content (non-language learning) course’. Such courses in study abroad programs in Japan are often taught in English. Although from a language educator’s point of view, it is frustrating that students do not have an opportunity for serious content-based language learning in classrooms in Japan, the instructor of the course took advantage of such environment in that everyone in class was learning Japanese but the course did not have to require students to use Japanese for the class assignments. 

More specifically, one of the options that the instructor suggested was a product that helps novice Japanese learners in their home institutions better prepare for study abroad in Japan. PBL’s final product aims to address real world issues for real world audiences (see, for example, PBLWorks for Buck Institute of Education). Therefore, if the final product is created for English speakers, it should be in English. All of the four groups started the project by reflecting on what words and phrases they wished they had known prior to coming to Japan. 

[P-14] 小木曽左枝子(立命館大学)・阿久津純恵(東洋大学) : 日本語教育における効果的なカタカナ語指導のための基礎研究

Saeko Ogiso (Ritsumeikan University), Sumie Akutsu (Toyo University)
Researching for effective ways of learning katakana loanwords in Japanese

 グローバル化や社会の変化とともに、カタカナ外来語が急増する中、日本語教育における学習者へのカタカナ語指導はどのように考えられているのだろうか。英語を語源とするカタカナ外来語が多い中、英語を第一言語とする学習者や十分な英語知識がある学習者からも「カタカナ(語)は難しい」といった声を耳にする。それは、日本語学習者に対して行われたカタカナ語に関する意識調査の結果(例:中山 2006; 陣内 2008)にも表れており、学習者からのカタカナ語指導への要望も大きい。しかしながら、日本語学習の入門期におけるカタカナ文字指導を終えた後、カタカナ語に特化した練習が行われることはあまりなく、体系的なカタカナ語指導は、日本語教育において一般的だとは言えない。そのため、カタカナ語の理解や運用は、中上級レベルの日本語学習者をも悩ますものだと言える。日本語教育におけるカタカナ語の体系的な指導の難しさは、教科書分析の観点からも鑑みることができる。総合教科書におけるカタカナ語の扱いは限定的であり、また数少ないカタカナ語に特化した教科書等においてもテーマやトピック別に学習する形式のものがほとんどである。一方、英語教育においては、英語の高頻度語の多くが日本語のカタカナ語として使われている(Daulton 2008)こともあり、カタカナ語が英単語習得を容易にするためのきっかけとなったり、カタカナ語の活用が長期記憶の助けになったりすることから、その有用性が検証されている(中田 2020)。本発表では、日本語教育における効果的なカタカナ語指導を検討するための足掛かりとして、英語教育におけるカタカナ語を活用した英単語の習得研究から、その効果と可能性を探る。

[P-15] 田畑サンドーム光恵(マッセー大学)・渡部倫子(広島大学)・坂野永理(岡山大学) : 日本語学習者用速読教材の開発

Mitsue Tabata-Sandom (Massey University), Tomoko Watanabe (Hiroshima University), Eri Banno (Okayama University)
Development of Speed Reading Materials for Learners of Japanese Language

 第二言語教育において読みの流暢さは読解力を伸ばすための重要な要素であるが、読みの流暢さを伸ばす方法の一つとして速読がある。Nation(2009)は流暢さの促進のためには易しい教材を使うべきだとしており、そのための速読教材は学習者にとって未知語がなく、文法も難しくない読み物にすることを提言している。日本語学習者用の速読教材はいくつか出版されており、授業で速読を取り入れた報告もある(今村,2014等)が、Nationが主張する流暢さの育成の要件を満たした速読教材はまだ開発されていない。そこで、今回、Quinn, Nation and Millet (2007) を参考にして、日本語学習者用の速読教材を開発した。Quinn他は、各レベルの読み物は全て同じ長さ、同じ語彙レベルで統一してある。また、流暢さには速さだけではなく内容理解も伴うべきだという考えから、読み物の後には内容についての多肢選択問題が入れてある。
 本発表では、開発した速読教材の内容、開発の際の検討項目、開発過程について述べる。教材は、初級修了、中級、上級の三つのレベルからなり、各レベルには複数の読み物とそれぞれの読み物についての内容理解質問がある。各レベルで読み物の長さ及び語彙・文法レベルを揃えて、均一の難易度の読み物とした。さらに読み物については、ジャンル、情報量、構成、前知識の必要性、挿絵挿入の可否等についても検討を行った。また、内容理解質問は、問題の形式と数、質問の順番なども検討した。作成後は複数の日本語教師に読んでもらい修正すべき点を指摘してもらった後、学習者に試用し、内容理解質問等が適切に機能しているかの確認も行った。

[P-16] 吉田悦子(滋賀県立大学) : 三者会話におけるあいづち表現と合意形成: 母語場面と相手言語接触場面を比較して

Etsuko Yoshida (University of Shiga Prefecture)
Reactive Tokens and Consensus Formation in Three-way Conversation: Comparing the Japanese-native language situations and the partner language contact situations

 本発表の目的は、タスク達成型の三者会話をデータとして、「相手言語接触場面」(以下,接触場面)と「母語場面」を対象に、日本語のあいづち表現が、どのように合意形成に寄与しているかをそれらが生起する発話連鎖の特徴を捉えることで明らかにすることである。特に、対話参与者の属性が異なる三者会話は、二者対話よりも発話交換構造や参与役割が複雑に変化するため、従来のIRFモデル(Sinclair and Coulthard 1975)や話者交替システム(Sack, Schegloff and Jefferson 1974)などの分析概念を適用する際には、さまざまな拡張や工夫が必要とされる(坊農・高梨2009)。それぞれの三者会話の発話データに基づくと、接触場面では、1名の母語話者が全発話のほぼ半数を占め、提案を軸とした「言語ホスト」の役割を担っているのに対し、母語場面では、発話数の割合はほぼ三人均等である。一見すると、接触場面では母語話者が意識的に質問―応答のインタラクションで会話進行を担う一方、非母語話者は言語的にも役割的にも不均衡な関係で参画しているような談話展開が予測される。しかしながら、三者会話に見られる感情表出系や繰り返し、共同補完のようなあいづち表現のタイプは、基盤化プロセスの一役を担って(Clark 1996, 高梨2016)、聞き手反応だけにとどまらず、相互に話し手への注意喚起を促す傾向が強いことが例証された。さらに、あいづち表現から次発話者ターンに結びついて、動的な合意形成への貢献も認められる。また、本研究の成果は、また、本研究の成果は、文化的背景が多様な国際共修場面や外国人材を受容する職場場面での活用が期待される。

[P-17] 吉田睦(国際基督教大学) : 遠隔会話の継続的な話者関係構築の特徴-カナダ日本語学習者と日本国内日本語母語話者との会話から-

Mutsumi Yoshida (International Christian University)
Characteristics of Continuous Speaker-Relationship Building in Online Conversations: Conversations between Japanese Language Learners in Canada and Japanese Native Speakers

 近年、コロナ禍の影響を受け多くの大学機関でオンライン授業が提供され、遠隔地を結んだコミュニケーションが普及している。日本語教育の現場においても、様々な教材や工夫が見られ、双方向コミュニケーションに近い学習経験を得られるようになった。しかしながら、遠隔地を結ぶオンラインのコミュニケーションや授業においては、一時的な接続の機会が多く、会う回数を重ねて継続的な話者関係を構築するという機会は少ない。そこで本研究では、カナダの大学機関で学ぶ日本語学習者と、日本国内の大学で学ぶ日本語母語話者の遠隔会話を収集し、そのコミュニケーションの特徴を縦断的に記述した。調査は、2022年12月より実施し、初対面の7組が3回の遠隔二者間会話を継続した、計21会話を分析の対象とした。学習者の日本語レベルは初級後半であり、自己紹介や日常生活、次の会話の日時決定などについて、各回30分の会話を実施した。分析では、談話における参与者の情報差に着目し、特に、話し手と聞き手の情報交換が繰り返される過程で、話題情報に関わる話者間の「情報差(知識差)」を解消するための表現に焦点を当てた。また遠隔会話におけるコミュニケーションの阻害要因(音声や視覚情報など)がある中で、相手との共有情報をもとに、各回の会話で話題を転換していく言語表現も分析した。本発表は質的な調査分析であるが、このような具体的な事例の蓄積を通し、日本語授業における談話題材の選択や、社会的な場面を想定した教材、日本への留学前指導のための基礎資料として貢献できることを願う。

Copied title and URL